小説の主人公になりたい

文字数 1,016文字

小説の主人公になれば有名になれると聞いた。ちょうどよいチャンスだ。そなたも余の物語を2000字小説に書いてくれ。
そんなこと言われてもどうやって?
そなたは余について実によく知っている。おまけにスペインにまでやってきて、数多くの写真を撮っている。余とアラゴンの名前を世に広めるのにこれほどふさわしい者はいないであろう。
でも2000字歴史小説にはもうすでにたくさんの人が応募しています。そのほとんどが日本史関係で文章もかなりうまい、私など入り込む隙もありません。
別に入賞などしなくてよい。ただ余とアラゴンの名前がもう少し日本人にも知ってもらいたいだけである。日本人は悲劇の主人公が好きだと聞いておる。成功して権力を握った者よりも、運命に翻弄され志半ばで倒れた者にこそ同情し、涙を流すらしい。
(大きな声で言えないけど)ラミロ2世は王家の三男に生まれて子供の頃から修道院に入れられ、それでも運命の皮肉から2人の兄が後継者を残さずに亡くなり、40代の後半になって修道院から引っ張り出され、王位についた人です。政治も戦いの方法も何もしらず、あの時代の王は戦って領土を広げてこそ立派な王と言われたから、貴族たちに馬鹿にされ、各地で反乱が起きました。ついに頭にきた王はウエスカに大きな鐘を作ると言って貴族たちを呼び集めました。
何をこそこそ話している?
何も知らない貴族たちは1人ずつ部屋に入れられていきました。王は1人ずつ裁判にかけ、反乱に加わった者はその場で刑を言い渡しました。役人がその体を押さえ、怖ろしい叫び声の中、首を切られていきました。後から入った貴族は血だらけの床に転がった首のない死体を見て慌てて逃げ出そうとしましたが、役人に両腕を押さえつけられ、同じ運命をたどりました。おびただしい数の首が切られ、そしてその首は鐘のように高く積み上げられました。『ウエスカの鐘』と呼ばれる事件です。
まるでサイコパスの王が登場するホラー小説だ。
だって事実なのだから仕方がないじゃないですか。
余が求めているのはそのような話ではない。自らの手を血に染めてまで祖国を守った王の感動的なドラマとして書いて欲しい。事実をただそのまま伝えるならそれは小説ではない。事実の裏に隠された人間の苦悩を描いて欲しい。
難しいけどやってみます。
こうしてペトロニーラは怖ろしい王を主人公にした小説を書くことになりました。どんな話ができるのでしょうか?この続きは次回のお楽しみ・・・
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登場人物紹介

ラミロ2世。アラゴンの王様だったがいろいろあって今は亡霊となっている

ペトロニーラ。アラゴン女王の名前を使っているがただの主婦。小説家になりたいと思っている。

フェリペ、16世紀のスペインの修道院で暮らすユダヤ人の少年。父親に捨てられて心を閉ざしていたが、ニコラス医師の指導で本来の明るさを取り戻す。まじめで勉強熱心。

ニコラス医師。修道院内の病院の医師で、孤児たちに勉強も教える。心を閉ざしていたフェリペを気にかけ、特別にラテン語や歴史、医学の基礎なども教える。

フアン1世。不真面目王と呼ばれ業績を残さずに死んだが、娘のヨランド・ダラゴンが勝利王シャルル7世を支えている。

ハインリヒ7世。皇帝フリードリヒ2世の長男でアラゴンの血も引いている。父と対立して反乱を起こし降伏して目を潰され。幽閉されて悲劇的な人生の幕を閉じる。

ペドロ2世。ラミロ2世のひ孫でレコンキスタの英雄。戦闘能力はかなり高く、ファンタジー映画やゲームの中では主要キャラになるタイプだが、なぜか小説の中で影が薄い。

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