小説の主人公になりたい
文字数 1,016文字
別に入賞などしなくてよい。ただ余とアラゴンの名前がもう少し日本人にも知ってもらいたいだけである。日本人は悲劇の主人公が好きだと聞いておる。成功して権力を握った者よりも、運命に翻弄され志半ばで倒れた者にこそ同情し、涙を流すらしい。
(大きな声で言えないけど)ラミロ2世は王家の三男に生まれて子供の頃から修道院に入れられ、それでも運命の皮肉から2人の兄が後継者を残さずに亡くなり、40代の後半になって修道院から引っ張り出され、王位についた人です。政治も戦いの方法も何もしらず、あの時代の王は戦って領土を広げてこそ立派な王と言われたから、貴族たちに馬鹿にされ、各地で反乱が起きました。ついに頭にきた王はウエスカに大きな鐘を作ると言って貴族たちを呼び集めました。
何も知らない貴族たちは1人ずつ部屋に入れられていきました。王は1人ずつ裁判にかけ、反乱に加わった者はその場で刑を言い渡しました。役人がその体を押さえ、怖ろしい叫び声の中、首を切られていきました。後から入った貴族は血だらけの床に転がった首のない死体を見て慌てて逃げ出そうとしましたが、役人に両腕を押さえつけられ、同じ運命をたどりました。おびただしい数の首が切られ、そしてその首は鐘のように高く積み上げられました。『ウエスカの鐘』と呼ばれる事件です。
余が求めているのはそのような話ではない。自らの手を血に染めてまで祖国を守った王の感動的なドラマとして書いて欲しい。事実をただそのまま伝えるならそれは小説ではない。事実の裏に隠された人間の苦悩を描いて欲しい。