クラウディオス・プトレマイオス(6)
文字数 923文字
『アルマゲスト』は古代において既に天文学の基本的な書物とされ、また『簡便表』共々、注釈書が書かれて天体の計算に広く用いられた。しかし、これらの内容を深めたり検証するといった科学的な進展は、古代においてはほとんどなかった。これらの書物が天文学において活発に利用・検証され、かつ改良されるのはイスラム期の中東や中世後半の欧州においてであって、観測技術や数理的な手法の発達と変革を促し、科学革命を準備した。こうして改善されたプトレマイオスの理論は、中世までの観測誤差の範囲内では、中心的な問題については、ほぼ観測と整合的であった。ただし、月の理論は黄径は非常によく説明したが、見かけの大きさ(視半径)については観測と全く合わなかった。そのほか、太陽の見かけの大きさの変動、惑星の明るさの変動など、周辺的な問題について観測に合わない点があった。
天文学は、観測の予測と説明の道具であると同時に、宇宙論にも示唆を与えるものであった。アリストテレスの宇宙論は、すでに見たようにエウドクソスその他の天文学者の見解を大いに利用しており、地球の大きさや恒星までの距離の見積もりから、地球の大きさは宇宙に比べれば無限小である、と述べている。だが、同時に天文学は天体の幾何学的な側面にのみ関わるもので、物理的な考察は自然学の役割であるとした。
プトレマイオスの宇宙論は、『アルマゲスト』第1巻や『惑星仮説』で明らかにされている。また、『アルマゲスト』の序文で、自然学は論争が絶えず明瞭な結論が得られないが、天文学を含む数学的な学問は、確実な基礎を持ち、自然学の問題を考える上でも有用な結果を示すことが出来るとしている。続く宇宙論の中では、地球が球であることや自転していないことについて、自然学的な論議ではなく経験論的な証拠をあげることに努めている。