人生を変えた出来事
文字数 1,700文字
余の場合は『ウエスカの鐘』で行った粛正だ。政治能力も戦闘能力もまるでないまま王になった余を馬鹿にして各地で貴族の反乱が起きた。余はウエスカに大きな鐘を作ると言って貴族たちを呼び集め、1人ずつ部屋に入れて反乱に加わった者をその場で斬首し、その首を鐘のように高く積み上げた。もちろん直接手を下したわけではないが、それを命令し、その光景をしっかり見ている。
余の場合は教皇にそそのかされて反乱を起こしたことで人生が大きく変わった。降伏して捕らえられ、王位をはく奪され、目を潰されて幽閉された。そして不治の病にかかり、最後は馬と一緒に谷底に身を投げた。余の人生の不幸のすべてはあの反乱から始まった。
こうして聞いてみると、王様やその血筋を引いた人の人生を変えた出来事というのは、そのまま歴史の流れを大きく変えたということにもなっています。それぞれ、もしその出来事がなかったら、歴史はどう変わっていたか考えてみてください。
『ウエスカの鐘』の粛正を行わなければ、いずれ反乱は大きくなって余は殺され、反乱の首謀者がアラゴン王になるか、カスティーリャかナバラにのっとられるかのどちらかだっただろう。いずれにせよアラゴンという国は大きく変わったはずだ。
このように、王様に関する出来事は、個人の人生だけでなく歴史の流れも大きく変えています。でもそのことが語られることはほとんどありません。それはなぜでしょう?それは実際に起きてしまった歴史の方が権力者にとって都合がいいからです。
ラミロ2世の粛正によって国は守られた、だから後はもうラミロ2世1人を悪者にすればいいのです。残虐非道な王として名前が残り、以後アラゴン、いやスペインになってからもラミロと名前がつく王様は1人もいません。
もしペドロ2世が戦死しなかったら、南フランスの状況はかなり変わったと思います。カタリ派は異端として迫害されました。でも理由は本当にカタリ派の教義だったのでしょうか?権力や領土の争いを手っ取り早く抑えて正義の側に立つためには、敵を異端にするのが最も効果的、そして異端と認定すれば今度は相手を残酷に殺した側が正しいとされてしまいます。僕たちの生きている時代も、カトリックとプロテスタントの争いが激しく、それぞれの正義のために限りなく残酷になっています。