人生を変えた出来事

文字数 1,700文字

ミゲル・セルベートのエッセイの中で、彼の人生を大きく変えた本『キリスト教の復興』の出版について書きました。作品については下の写真から入って下さい。
そこで今日は皆さんに人生を変えた出来事について聞いてみたいと思います。
余の場合は『ウエスカの鐘』で行った粛正だ。政治能力も戦闘能力もまるでないまま王になった余を馬鹿にして各地で貴族の反乱が起きた。余はウエスカに大きな鐘を作ると言って貴族たちを呼び集め、1人ずつ部屋に入れて反乱に加わった者をその場で斬首し、その首を鐘のように高く積み上げた。もちろん直接手を下したわけではないが、それを命令し、その光景をしっかり見ている。
余の場合は教皇にそそのかされて反乱を起こしたことで人生が大きく変わった。降伏して捕らえられ、王位をはく奪され、目を潰されて幽閉された。そして不治の病にかかり、最後は馬と一緒に谷底に身を投げた。余の人生の不幸のすべてはあの反乱から始まった。
余の場合は南フランスの領土をめぐる争いで、カタリ派の味方をしてしまったことで人生が大きく変わった。教皇に破門され、その状況で戦死したため、最初は教会の墓地に埋葬されることも許されなかった。
私の場合は何か大きな事件があったわけではありません。父上と対立し、王妃とその寵臣に牛耳られ、気が付いた時には王国の財政が傾いて、死んだ時に王にふさわしい棺を作ってもらえず、亡霊になってしまいました。
こうして聞いてみると、王様やその血筋を引いた人の人生を変えた出来事というのは、そのまま歴史の流れを大きく変えたということにもなっています。それぞれ、もしその出来事がなかったら、歴史はどう変わっていたか考えてみてください。
『ウエスカの鐘』の粛正を行わなければ、いずれ反乱は大きくなって余は殺され、反乱の首謀者がアラゴン王になるか、カスティーリャかナバラにのっとられるかのどちらかだっただろう。いずれにせよアラゴンという国は大きく変わったはずだ。
もし余が反乱を起こさなければ、そのまま余は父上の跡継ぎとなり、異母弟たちも人生を全うできたかもしれない。
もし余があの時の戦いで戦死せずに勝っていれば、南フランスの状況は大きく変わり、カタリ派への迫害もあのようなことにはならなかったかもしれない。
私がもっとやる気のある人間だったら、王国は財政難にはならず、跡継ぎも残せたと思います。
このように、王様に関する出来事は、個人の人生だけでなく歴史の流れも大きく変えています。でもそのことが語られることはほとんどありません。それはなぜでしょう?それは実際に起きてしまった歴史の方が権力者にとって都合がいいからです。
それはどういうことだ?
ラミロ2世の粛正によって国は守られた、だから後はもうラミロ2世1人を悪者にすればいいのです。残虐非道な王として名前が残り、以後アラゴン、いやスペインになってからもラミロと名前がつく王様は1人もいません。
確かにそうだ。
ハインリヒ7世の反乱は教皇が大きく関わっています。でも終わってしまえば、ハインリヒ7世1人が罰を受け、皇帝と教皇の争いはますます激しくなっています。教皇側がそのことで反省することはありません。
もし余が教皇にそそのかされなければ、反乱などという大それたことは考えなかっただろう。
もしペドロ2世が戦死しなかったら、南フランスの状況はかなり変わったと思います。カタリ派は異端として迫害されました。でも理由は本当にカタリ派の教義だったのでしょうか?権力や領土の争いを手っ取り早く抑えて正義の側に立つためには、敵を異端にするのが最も効果的、そして異端と認定すれば今度は相手を残酷に殺した側が正しいとされてしまいます。僕たちの生きている時代も、カトリックとプロテスタントの争いが激しく、それぞれの正義のために限りなく残酷になっています。
これ、フェリペ。危険な発言をしていないか?
歴史は常に勝った側、権力を握った側から書かれています。でも僕たちはそうでない立場の人と知り合いました。だから権力者側から見たのとは違う歴史を伝えていきたいです。
話が大きくなったので、今日はここで終わりにします。
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登場人物紹介

ラミロ2世。アラゴンの王様だったがいろいろあって今は亡霊となっている

ペトロニーラ。アラゴン女王の名前を使っているがただの主婦。小説家になりたいと思っている。

フェリペ、16世紀のスペインの修道院で暮らすユダヤ人の少年。父親に捨てられて心を閉ざしていたが、ニコラス医師の指導で本来の明るさを取り戻す。まじめで勉強熱心。

ニコラス医師。修道院内の病院の医師で、孤児たちに勉強も教える。心を閉ざしていたフェリペを気にかけ、特別にラテン語や歴史、医学の基礎なども教える。

フアン1世。不真面目王と呼ばれ業績を残さずに死んだが、娘のヨランド・ダラゴンが勝利王シャルル7世を支えている。

ハインリヒ7世。皇帝フリードリヒ2世の長男でアラゴンの血も引いている。父と対立して反乱を起こし降伏して目を潰され。幽閉されて悲劇的な人生の幕を閉じる。

ペドロ2世。ラミロ2世のひ孫でレコンキスタの英雄。戦闘能力はかなり高く、ファンタジー映画やゲームの中では主要キャラになるタイプだが、なぜか小説の中で影が薄い。

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