クラウディオス・プトレマイオス(13)
文字数 953文字
プトレマイオスの『視学(光学)』は屈折の本格的な理論が展開されている、現存する最古の書物である。簡単な実験器具を用いた入射角と屈折角の関係の計測について述べ、この二つの量の関係を空気ー水、水ーガラス、空気ーガラスについて表にまとめている。これらの表は数値がある規則を完全に満たしているので、理論的な計算だと思われる。そして、表の数値はスネルの法則を用いた計算と比較しても極端な外れはない。イスラム圏では、この表はイブン・ハイサムやal-Farisinによって若干の値が用いられ、欧州ではウィテロの『光学』に若干修正したものが掲載されて流布した。さらに、大気層の上部の屈折で星の見かけの方向が真の方向からわずかにずれることにも触れている。
反射による像の形成については、ユークリッド『反射視学(反射光学)』が解釈の難しい仮定や誤りと思われる議論を含むのに対して、論理的に明晰で、一段と込み入った問題が論じられている。17世紀に盛んに論じられた、球面鏡に関する難問「アルハーゼン(イブン・ハイサムのラテン名)の問題」を最初に提起したのも本書である。
これらの反射や屈折の研究は高度なものであるが、いずれも「視線」の反射・屈折であることに注意する必要がある。基本法則を確認する実験でも標的を反対側から覗いたときに眼に入る角度を計測しており、意識されているのはあくまでも「視線」である。その上、扱われる問題は全て、反射や屈折を通しての「像の形成」である。例えば、平面鏡での反射では、奥行きを含めて反転した物体がそこにあるように見える、といったことを導かねばならず、そのためには奥行きの認識についての仮定が当然必要になる。つまり、現在で言うところの光学には収まらない問題を扱っている。その一方、光を一点に集めるための鏡(Burning mirror)の研究が当時かなり進んでいたが、プトレマイオスはそれには一切ふれない。