クラウディオス・プトレマイオス(12)
文字数 920文字
古代においては、現代の光学に相当する内容は、いくつかの分野に分かれて研究されていた。光と視覚の関係が明らかにされてそれらの研究が統合されるのは、中世の中程以降のことである。その時に土台を提供したのは、古代の幾何学的な視覚論、特にその最高峰たるプトレマイオスの大著『視学(光学)』であった。
プトレマイオス以前、アリストテレスの頃、すでに幾何学的な視覚の理論は、数学的な学問の一つの分野として成立しており、ユークリッドやヘロンによって発展させられていた。彼らの理論は、眼から放出される「視線」が対象に届いて視覚が成立するとする、ある種の外送理論であった。そして、視線を幾何学的に分析して、遠近法や測量、視覚の明瞭さ、鏡による像の形成などを論じた。
当時は幾何学的な理論家のみでなく、プラトンや、当時有力な哲学の学派であったストア派の視覚論も、各々タイプの異なる外送理論であった。ただし、アリストテレスは外送理論を否定して、対象の「色」の眼への流入で視覚を説明して魂論(霊魂論、心理学)の一部としての視覚の形成のプロセスを論じた。これらの哲学者の視覚論に対し、幾何学者の視覚論は、扱う問題が限定される代わりに、厳密で強力だった。
プトレマイオスは、幾何学的な視覚論の伝統を受け継ぎつつも、アリストテレス的な感覚の理論を参考にし、錯視の原因をさまざまな階層に分類して論じるなど、より総合的な視覚論を展開した。視線の物理的な本性や眼のどこで像が形成されるかなど、その他の数理的でない側面も積極的に論じ、ストア派の議論も一部取り込んだ。また、ユークリッドはもちろん、ヘロンに比べても経験論的な色彩が強い。ユークリッドやヘロンが視線の基本的な性質を仮定するか、あるいはより「基本的な」仮定から演繹するのに対して、プトレマイオスは経験や実験に訴えている。