クラウディオス・プトレマイオス(10)
文字数 894文字
音楽については、音程を二つの音の数比で表すピュタゴラス派の方法論を批判的に継承した。定性的な方法を示した古典期のアリストクセノスの『ハルモニア原論』を新ピュタゴラス派(ピュタゴラス派の伝統は紀元前4世紀の末に一度切れている)の立場から痛烈に批判し、独自の見解を提起したハルモニア論(全三巻)を著した。
『ハルモニア論』第1巻冒頭では、ハルモニアの判別者について述べている。判別者は質料としての聴覚と形相としての理性の者であるとして、聴覚と理性によりハルモニアが調和であることが判別可能となる。その上で調和音程をどのように定めるかというピュタゴラス以後、古代ギリシア世界で考えられてきた問題を論じる。ピュタゴラス及びその教団は、万物の根源は数であると考え、特に総和が10となる1,2,3,4の4つの数(テトラクテュス)を神聖視し、音楽の音律もこのテトラクテュスに基づく数比により設定した(ピュタゴラス音律)
これに対し、古代ギリシャ思想の古典期に登場したアリストクセノスは、最初はピュタゴラス派の教説に学んだものの飽き足らず、アリストテレスの学説を学んだ人物であるが、完全四度の音程の間に設定する2つの楽音を定めるにあたって、完全四度の音程が完全五度と完全四度の音程の差を単位音程(トノス)として、単位音程二個半であるとした。つまり数比を徹底的に用いる方法によらず、聴覚に従った定性的な方法を示した。プトレマイオスの時代から見て500年前の説であるが『ハルモニア論』によると徐々に紀元2世紀頃のアレクサンドリアの若い世代に広まっていたとされる。これに対してプトレマイオスはアルキュタスやディデュモスら、ピュタゴラス派の先人の説を批判的に継承しつつ数比を用いた音律を示し、これが聴覚にも調和として判別されることを説いてアリストクセノス派に反論した。