第8話

文字数 628文字

 その日は、朝から重苦しい空気が漂った。
 朝七時に遺体運搬専門の業者によって、影正が運び出された。
 明の話では、山口には夕方前に到着予定だそうだ。向島から向小島へは、影唯(かげただ)が定期船の運転手に連絡を入れたらしい。そうなると、影正死亡の噂は島中に広がっているだろう。おそらく、事実とは違う、旅行中の不幸な事故として。事情を知っている省吾や風子(ふうこ)、ヒナキは、それが嘘だということに気付いているかもしれない。
 目の下にクマを作った顔で影正を送り出す大河は、一言も口を開かなかった。虚ろな目で、ただじっと見つめていた。
 それから影唯と雪子(ゆきこ)が到着するまでの間、大河は部屋に閉じこもっていた。朝食も摂らず、水さえも口にしなかった。部屋へ向かう時に感じた、大河が纏う人を拒絶した空気に声をかけることもままならず、時間だけが過ぎた。
 影唯と雪子が到着し、深く頭を下げる明と宗一郎に対し、二人は「大変お世話になりました」と言って深く頭を下げ返した。
 影唯に背を押されるようにしてタクシーに乗り込む大河に、弘貴が何か言いかけてやめた。
 結局、大河は一度も皆と顔を合わせることなく、寮を後にした。
「大河、もう来ないよな……」
 弘貴が寂しそうにぽつりと呟いた。
 肩を落として寮へ戻る弘貴を見つめていると、宗一郎が言った。
「宗史、晴。二日後の葬儀に出席しなさい」
 その有無を言わさない口調に、宗史も晴もただはいと頷くしかなかった。
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