第22話
文字数 3,749文字
部屋を出ると、閃が無言で母に歩み寄り腕を掴んだ。
「痛っ、ちょっと何するの!」
ローテーブルを挟んだ向こう側から、閃は母を居間の奥、ベランダの方へ連れて行き、美琴と明は手前を通って玄関へ向かう。
キッチンの作業台の上に、一通の茶封筒が置かれていた。手続きのリストだろう。
「ここから一歩も動くな」
ひと言言い置いて閃は母を開放し、こちらへ戻ってきた。先に、と明に促されてスニーカーに足を入れる。
「美琴」
呼びかけたのは、母だ。振り向くと、動くなと言われていたのにローテーブルの側まで移動しており、体からは小さな邪気がゆらゆらと立ち昇っていた。
「言っとくけど、あんたは幸せになんかなれないわよ。あんたはあたしの娘だもの。どこに行っても、どれだけ努力しても絶対にね。そういう運命なのよ。そいつらもそのうち飽きてあんたを簡単に捨てるわ。男なんて皆そんなもんよ。あんたは、絶対不幸になる」
言葉を発するごとに、比例して邪気が質量を増していく。まるで呪詛のようだ。けれどもう、惑わされない。
――ああ、そうか。
美琴は悲しげに眉を寄せた。娘がいなくなるメリットを理解した上で、それでも一緒に暮らそうとした一番の理由が、やっと分かった。もちろん金も目当てだったのだろう。だがそれ以上に、産みたくもなかった子供が――自分を捨てた男の子供が誰かに必要とされ、自分の知らない場所で幸せになることが許せなかった。母にとって、何よりもそれが屈辱なのだ。
これまでの暴力や売春を容認したのは、いわば娘を介した、父への復讐だったのかもしれない。
産んでくれと頼んだわけでもないのにどうして復讐の道具にされなければならないのかとか、自分の娘だから不幸になる運命だとか、めちゃくちゃな理屈だと思う。けれどきっと、何を言っても母には響かない。さっきもそうだった。娘の必死の訴えを聞きながら、考えていたのは結局自分のこと。どんな言葉も虚しいだけだ。でも、一つだけ。
失礼なことを言わないで、と口を開こうとした美琴より先に、明が溜め息をついた。
「心外ですね。私たちは、そんな無責任な男ではありません」
言いながら内ポケットから霊符を取り出し、閃が承知したように母の元へ歩み寄る。何をするんだろうと思って二人を交互に見やっていると、明が不敵に笑った。
「神に誓って、何があっても見捨てたりなどしません。もし不幸になる運命だとしても、必ず断ち切って見せますよ」
彼が陰陽師だからだろうか。これが他の人なら冗談にしか聞こえないが、妙に説得力があって、やけに照れ臭かった。
明と近寄ってくる閃を交互に見やり、母が怯えた顔で後ずさった。
「な、何……っ、痛っ」
閃が、母を後ろ手に拘束して口を塞いだ。母は目を見開き、んー、んー、と声にならない悲鳴を上げる。
明が、人差し指と中指を揃えた手を唇に添えた。
「オン・クロダノウ・ウンジャク・ソワカ」
真言を唱えながら霊符を放つ。すると、霊符がひとりでにぴんと張り、母へ向かって宙を滑った。
「帰命 し奉 る。窮愁斎戒 、六根清浄 ――」
霊符が母の額にぴたりと張り付き、母の目に、涙と恐怖の色が滲んだ。
「穢絶心魂 、急急如律令 」
唱え終えるや否や、霊符が勢いよく火を噴いた。
「んん――――ッ!」
あっという間に炎に飲まれた母は、目を見開いて顎をのけぞらせ、くぐもった悲鳴を上げた。
幻覚かと思うほど戦慄し、一気に血の気が引いた。いくら見限ったとはいえ、目の前で火だるまになる母を見捨てられるほど鬼ではない。
「明さ……っ」
「心配ない」
縋るようにコートを掴むと、明は冷静に告げた。
「邪気を浄化しているだけだ。体に影響はないよ」
「あ……」
浄化。これが。
「ただ、苦しいだろうけど」
明を疑うわけではないけれど、こんな光景を見れば大丈夫と言われても不安は残る。美琴は複雑な気持ちで恐る恐る母を見やった。よく見ると、火は母を拘束している閃に燃え移っていない。真っ赤な炎に混じった邪気の黒が、徐々に小さくなっていく。閃が母を拘束し口を塞いだのは、悲鳴を上げて暴れるのを抑えるためだったのか。
影響がないとはいえ、体をよじらせてもがき苦しむ母の姿をいつまでも見ていられず、美琴は顔を歪めて視線を逸らした。
「目が覚めたら、かなり気持ちが落ち着いているだろう」
ずいぶん溜め込んでいたみたいだから。明は、小さくそう付け加えた。
母子家庭で育ち、お金に苦労し、人の税金で暮らしていると揶揄された。大人になり、やっと幸せになれると思った矢先に相手の男に裏切られ、けれど子供は中絶できない時期に入っていた。出産したあとは金と時間がかかるばかりで、祖母のパート代を合わせても、稼いでも稼いでも出て行く。
大変だったと思う。けれど、制度を利用していれば、少しは違ったのではないか。自分のプライドを優先させ、利用できる制度を利用しなかったのは、母に責任がある。学校を通して案内が来るということは、それだけ困っている、あるいは利用する家庭があるということだ。個人情報がきちんと管理されている時代で、昔とは違う。母は、そう思えなかった。過去の屈辱と記憶に囚われ、自分の首を絞めていることに、気付いていなかったのだろうか。
憐れだと思う反面、では自分はどうだろうと思う。暴力や殺されそうになった記憶、そして母自身に、囚われずに生きていけるだろうか。
炎が消えるまで、そう時間はかからなかった。燻っていた小さな炎が霊符と共に消えると、母はがっくりと崩れ落ちた。閃が素早く腰に手を回して支え、そのまま床に横たえる。
「どうする」
問うたのは閃だ。
「すみません、運んでもらってもいいですか?」
美琴は提げていた紙袋を置き、靴を脱いで母の部屋へ向かった。夜はまだ冷える。床に寝かしておくと風邪をひいてしまうだろう。
小走りに部屋の中へ戻る美琴の背中を見つめ、明が微笑んだ。
ベッドが邪魔をして、扉は半分ほどしか開かない。美琴はベッドの向こう側に回り、閃は体を横にして入った。閃が横たえた母に布団を掛け直し、美琴は涙の跡が残る寝顔をじっと見下ろした。
正直、悲しいと思わない。むしろ、やっと自由になれることにほっとしている。地獄のような日々だったけれど、母がいたから生活できていたことは確かだ。薄情だなと、少しだけ思う。けれど、もう二度と会うことはないだろう。
「お母さん。ありがとう、ばいばい」
迷いはなかった。囁くように告げて部屋を出ると、美琴は静かに扉を閉めた。
点けっ放しだった電気を慌てて消し、靴を履いて、通学用の靴を手提げ袋に入れる。美琴は改めて部屋を見渡した。
十四年間暮らした家。息苦しくて、窮屈で、けれど祖母との楽しい思い出が詰まった場所。だが母と同じ。もう戻ってくることはないだろう。
美琴はゆっくりと、身を翻した。
「美琴。近くに、人目に付かない場所はあるか?」
扉を閉めると、明が尋ねた。
「えっと……この時間なら、小学校の隣の公園とか。広いグラウンドの横にあります」
何をするんだろう。
「閃、念のために様子を見てきてくれ」
「承知した」
荷物を預かろうと言ってボストンバッグと紙袋を受け取ると、閃は階段を下り、踊り場から外へ飛び出した。神様だと分かっていても、驚くなという方が無理だ。唖然と見つめる美琴に、明が苦笑いした。
「美琴、手が止まっている」
「あっ、はい。すみません」
指摘され、慌てて鍵穴に差し込んだままの鍵を回す。そして、鍵を玄関扉のポストに差し込み、手を離した。ゴトンと重厚な金属音が響く。これでもう、本当にお別れだ。
手を離したままの恰好で動きを止め、息を吐き出す。一拍置いて、階段へ足を向けた。
色々と聞きたいことはあるが、ここで話すと声が響く。そうだ、お礼を言っていない。先にお礼を言ってから、と頭の中で段取りを組みながら階段を下りていると、入口の前を人が通りかかった。Cに住んでいる、小島という年配の女性だ。いつだったか、大荷物を持っている時に出くわして、運ぶのを手伝ったことがある。
美琴と明を交互に見やる小島に会釈すると、彼女は少し気まずそうに会釈を返し、そのまま通り過ぎた。こんな時間に男と一緒に出掛けるなんて不審に思っただろうが、何も聞いてこないところを見ると、何となく察したのかもしれない。
外灯が照らす小道を歩きながら、美琴は辺りを見渡した。
しんと静まり返った敷地には、いくつもの同じ形、同じ高さの建物が並んでいる。いつからだろう。この光景が、まるで要塞のように見えていたのは。祖母がいて、友達や瑠香たちがいて、楽しい思い出もある。けれど窮屈で、息苦しかった。一生、ここから出られないと思っていた。それなのに――。
美琴は敷地を出る一歩手前で足を止め、おもむろに振り向いた。真っ直ぐ顔を上げ、視線を巡らせる。
落ち着いたら、瑠香たちに手紙を送ろう。部屋番号は分かるし、友達には、図書室の本を関谷宛に送って一緒に入れておけばいい。直接お別れを言えないのは寂しいが、いつか会いに来ればいい。それがいつになるかは、自分でもまだ分からないけれど。
美琴は姿勢を正し、深々と頭を下げた。そして身を翻し、強く一歩を踏み出した。
「痛っ、ちょっと何するの!」
ローテーブルを挟んだ向こう側から、閃は母を居間の奥、ベランダの方へ連れて行き、美琴と明は手前を通って玄関へ向かう。
キッチンの作業台の上に、一通の茶封筒が置かれていた。手続きのリストだろう。
「ここから一歩も動くな」
ひと言言い置いて閃は母を開放し、こちらへ戻ってきた。先に、と明に促されてスニーカーに足を入れる。
「美琴」
呼びかけたのは、母だ。振り向くと、動くなと言われていたのにローテーブルの側まで移動しており、体からは小さな邪気がゆらゆらと立ち昇っていた。
「言っとくけど、あんたは幸せになんかなれないわよ。あんたはあたしの娘だもの。どこに行っても、どれだけ努力しても絶対にね。そういう運命なのよ。そいつらもそのうち飽きてあんたを簡単に捨てるわ。男なんて皆そんなもんよ。あんたは、絶対不幸になる」
言葉を発するごとに、比例して邪気が質量を増していく。まるで呪詛のようだ。けれどもう、惑わされない。
――ああ、そうか。
美琴は悲しげに眉を寄せた。娘がいなくなるメリットを理解した上で、それでも一緒に暮らそうとした一番の理由が、やっと分かった。もちろん金も目当てだったのだろう。だがそれ以上に、産みたくもなかった子供が――自分を捨てた男の子供が誰かに必要とされ、自分の知らない場所で幸せになることが許せなかった。母にとって、何よりもそれが屈辱なのだ。
これまでの暴力や売春を容認したのは、いわば娘を介した、父への復讐だったのかもしれない。
産んでくれと頼んだわけでもないのにどうして復讐の道具にされなければならないのかとか、自分の娘だから不幸になる運命だとか、めちゃくちゃな理屈だと思う。けれどきっと、何を言っても母には響かない。さっきもそうだった。娘の必死の訴えを聞きながら、考えていたのは結局自分のこと。どんな言葉も虚しいだけだ。でも、一つだけ。
失礼なことを言わないで、と口を開こうとした美琴より先に、明が溜め息をついた。
「心外ですね。私たちは、そんな無責任な男ではありません」
言いながら内ポケットから霊符を取り出し、閃が承知したように母の元へ歩み寄る。何をするんだろうと思って二人を交互に見やっていると、明が不敵に笑った。
「神に誓って、何があっても見捨てたりなどしません。もし不幸になる運命だとしても、必ず断ち切って見せますよ」
彼が陰陽師だからだろうか。これが他の人なら冗談にしか聞こえないが、妙に説得力があって、やけに照れ臭かった。
明と近寄ってくる閃を交互に見やり、母が怯えた顔で後ずさった。
「な、何……っ、痛っ」
閃が、母を後ろ手に拘束して口を塞いだ。母は目を見開き、んー、んー、と声にならない悲鳴を上げる。
明が、人差し指と中指を揃えた手を唇に添えた。
「オン・クロダノウ・ウンジャク・ソワカ」
真言を唱えながら霊符を放つ。すると、霊符がひとりでにぴんと張り、母へ向かって宙を滑った。
「
霊符が母の額にぴたりと張り付き、母の目に、涙と恐怖の色が滲んだ。
「
唱え終えるや否や、霊符が勢いよく火を噴いた。
「んん――――ッ!」
あっという間に炎に飲まれた母は、目を見開いて顎をのけぞらせ、くぐもった悲鳴を上げた。
幻覚かと思うほど戦慄し、一気に血の気が引いた。いくら見限ったとはいえ、目の前で火だるまになる母を見捨てられるほど鬼ではない。
「明さ……っ」
「心配ない」
縋るようにコートを掴むと、明は冷静に告げた。
「邪気を浄化しているだけだ。体に影響はないよ」
「あ……」
浄化。これが。
「ただ、苦しいだろうけど」
明を疑うわけではないけれど、こんな光景を見れば大丈夫と言われても不安は残る。美琴は複雑な気持ちで恐る恐る母を見やった。よく見ると、火は母を拘束している閃に燃え移っていない。真っ赤な炎に混じった邪気の黒が、徐々に小さくなっていく。閃が母を拘束し口を塞いだのは、悲鳴を上げて暴れるのを抑えるためだったのか。
影響がないとはいえ、体をよじらせてもがき苦しむ母の姿をいつまでも見ていられず、美琴は顔を歪めて視線を逸らした。
「目が覚めたら、かなり気持ちが落ち着いているだろう」
ずいぶん溜め込んでいたみたいだから。明は、小さくそう付け加えた。
母子家庭で育ち、お金に苦労し、人の税金で暮らしていると揶揄された。大人になり、やっと幸せになれると思った矢先に相手の男に裏切られ、けれど子供は中絶できない時期に入っていた。出産したあとは金と時間がかかるばかりで、祖母のパート代を合わせても、稼いでも稼いでも出て行く。
大変だったと思う。けれど、制度を利用していれば、少しは違ったのではないか。自分のプライドを優先させ、利用できる制度を利用しなかったのは、母に責任がある。学校を通して案内が来るということは、それだけ困っている、あるいは利用する家庭があるということだ。個人情報がきちんと管理されている時代で、昔とは違う。母は、そう思えなかった。過去の屈辱と記憶に囚われ、自分の首を絞めていることに、気付いていなかったのだろうか。
憐れだと思う反面、では自分はどうだろうと思う。暴力や殺されそうになった記憶、そして母自身に、囚われずに生きていけるだろうか。
炎が消えるまで、そう時間はかからなかった。燻っていた小さな炎が霊符と共に消えると、母はがっくりと崩れ落ちた。閃が素早く腰に手を回して支え、そのまま床に横たえる。
「どうする」
問うたのは閃だ。
「すみません、運んでもらってもいいですか?」
美琴は提げていた紙袋を置き、靴を脱いで母の部屋へ向かった。夜はまだ冷える。床に寝かしておくと風邪をひいてしまうだろう。
小走りに部屋の中へ戻る美琴の背中を見つめ、明が微笑んだ。
ベッドが邪魔をして、扉は半分ほどしか開かない。美琴はベッドの向こう側に回り、閃は体を横にして入った。閃が横たえた母に布団を掛け直し、美琴は涙の跡が残る寝顔をじっと見下ろした。
正直、悲しいと思わない。むしろ、やっと自由になれることにほっとしている。地獄のような日々だったけれど、母がいたから生活できていたことは確かだ。薄情だなと、少しだけ思う。けれど、もう二度と会うことはないだろう。
「お母さん。ありがとう、ばいばい」
迷いはなかった。囁くように告げて部屋を出ると、美琴は静かに扉を閉めた。
点けっ放しだった電気を慌てて消し、靴を履いて、通学用の靴を手提げ袋に入れる。美琴は改めて部屋を見渡した。
十四年間暮らした家。息苦しくて、窮屈で、けれど祖母との楽しい思い出が詰まった場所。だが母と同じ。もう戻ってくることはないだろう。
美琴はゆっくりと、身を翻した。
「美琴。近くに、人目に付かない場所はあるか?」
扉を閉めると、明が尋ねた。
「えっと……この時間なら、小学校の隣の公園とか。広いグラウンドの横にあります」
何をするんだろう。
「閃、念のために様子を見てきてくれ」
「承知した」
荷物を預かろうと言ってボストンバッグと紙袋を受け取ると、閃は階段を下り、踊り場から外へ飛び出した。神様だと分かっていても、驚くなという方が無理だ。唖然と見つめる美琴に、明が苦笑いした。
「美琴、手が止まっている」
「あっ、はい。すみません」
指摘され、慌てて鍵穴に差し込んだままの鍵を回す。そして、鍵を玄関扉のポストに差し込み、手を離した。ゴトンと重厚な金属音が響く。これでもう、本当にお別れだ。
手を離したままの恰好で動きを止め、息を吐き出す。一拍置いて、階段へ足を向けた。
色々と聞きたいことはあるが、ここで話すと声が響く。そうだ、お礼を言っていない。先にお礼を言ってから、と頭の中で段取りを組みながら階段を下りていると、入口の前を人が通りかかった。Cに住んでいる、小島という年配の女性だ。いつだったか、大荷物を持っている時に出くわして、運ぶのを手伝ったことがある。
美琴と明を交互に見やる小島に会釈すると、彼女は少し気まずそうに会釈を返し、そのまま通り過ぎた。こんな時間に男と一緒に出掛けるなんて不審に思っただろうが、何も聞いてこないところを見ると、何となく察したのかもしれない。
外灯が照らす小道を歩きながら、美琴は辺りを見渡した。
しんと静まり返った敷地には、いくつもの同じ形、同じ高さの建物が並んでいる。いつからだろう。この光景が、まるで要塞のように見えていたのは。祖母がいて、友達や瑠香たちがいて、楽しい思い出もある。けれど窮屈で、息苦しかった。一生、ここから出られないと思っていた。それなのに――。
美琴は敷地を出る一歩手前で足を止め、おもむろに振り向いた。真っ直ぐ顔を上げ、視線を巡らせる。
落ち着いたら、瑠香たちに手紙を送ろう。部屋番号は分かるし、友達には、図書室の本を関谷宛に送って一緒に入れておけばいい。直接お別れを言えないのは寂しいが、いつか会いに来ればいい。それがいつになるかは、自分でもまだ分からないけれど。
美琴は姿勢を正し、深々と頭を下げた。そして身を翻し、強く一歩を踏み出した。