第11話
文字数 1,675文字
*・・・*・・・*
荷物と共に自室へ入るなり、大河はベッドにダイブした。
「疲れた……」
志季も志季だが、まさか鈴があんなに怒るとは。やはり火の神様は、一見クールに見えても激しい性格なのだろうか。あの騒ぎで余計に疲れた気がする。
ごろんと仰向けになり、ふと気付く。宗史が使ったはずなのに、きちんと整えられている。性格が出るなぁ、と苦笑が漏れた。
あのあと、紫苑と共に風呂場へ急ぐと、「今さらお前の裸など何とも思わぬわ!」と鈴の怒声が飛び出してきた。どうやら、パンツ一枚の宗史に何か言われたらしい。鈴がいつ明の式神になったのか知らないが、何とも思わないくらい何度も裸を見ているのなら、幼い頃の宗史を知っているのだろう。でもそういう問題じゃない。
結局、紫苑が鈴を羽交い絞めにし、明に包み隠さず詳細に報告するという、とばっちりを受けて超絶不機嫌な宗史が出した条件をしぶしぶ飲み、何とか事態は収束した。それ絶対俺もなんか言われる、と晴が肩を落としたことは言うまでもない。
我に返った影唯が大慌てで精霊を回収し、熱湯を抜いて水を足すという余計な作業が加わり、大河たち前線組が入浴を済ませた頃には、すでに十一時を回っていた。
宗史の不調もあり、明日は洞窟の調査以外の予定はない。報告は明日に回すことになった。
続きの間は、奥にもう一部屋ある。雪子の方の親戚一同が泊まりに来た時に使用するので、布団の数も広さも十分だ。とはいっても、さすがに男四人の中に女一人を放り込むわけにはいかず、鈴は影正の部屋があてがわれ、宗史ら四人で続きの間に泊まることになった。
ちなみに、入浴後、晴と志季は揃って深々と影唯や雪子に頭を下げた。
「気付かなかった僕のせいでもあるから、気にしなくていいよ」
「そうよ、ちょっと驚いただけだから。もう気にしないで」
と二人はフォローを入れたが、志季は気まずい顔のまま姿を消した。鈴に激怒され、宗史や晴に馬鹿呼ばわりされ、加えて明日には明からの説教も待っている。
「志季、心折れないかな」
故意ではないにせよ、あれはさすがにまずかった。だが可哀想だとも思うので、明日は優しくしてあげよう。
そんなことを思って一人で笑っていると、キャリーケースの取っ手にひっかけているボディバッグから、携帯の着信音が鳴った。省吾かな。小さく呟いて体を起こし、まだ少し重い腕を伸ばして携帯を引っ張り出す。やはり省吾だ。
「もしもし?」
「あ、悪い。まだ起きてたか?」
「うん、大丈夫。……風は?」
「とりあえず、予定通りヒナんちに泊まってる。でさ、お前、明日京都に戻るんだよな。時間は?」
「夜になる。昼間のチケットが取れなかったみたいで。って、そうだ。あのさ」
「うん?」
「例の洞窟の調査に行くんだけど、省吾も来る?」
「お、マジか。行く」
即決だ。行き慣れた場所だし、こんな機会でもないと足を運ぶことはもうないだろうと思って聞いたのだが、昼間話しをしたことで省吾も懐かしく思っていたのかもしれない。大河はくすりと笑った。
「分かった。皆に言っとく。二時か三時くらいになると思う」
「じゃあ、一時くらいにそっちに行くわ。風子のこともその時に話す。疲れてるだろ」
「んー、まあ……」
余計な騒動のせいでもあるのだが、今は時間を置いた方がいいと、自分で分かる。大河の曖昧な返事に、省吾が小さく笑った。
「じゃあ、切るな。悪かったな、こんな時間に」
「全然。こっちこそ、ありがと」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
挨拶を最後に、通話は呆気なく切れた。目の前であんな光景を見せられたのだ。気を使ってくれているのだろうが、何だかちょっとだけ他人行儀な感じだった。でもそれは、自分も同じかもしれない。
大河は携帯を横に置き、ボディバッグから独鈷杵を二本、取り出した。宗史と影綱の独鈷杵。
「……ほんとに、使っていいのかな……」
息苦しさも違和感もなく、自分の力を最大限に発揮できる、あの感覚。あれはまさに、爽快というべき解放感だった。
けれど、それは同時に、自分の感情に流される危険も孕んでいる。
荷物と共に自室へ入るなり、大河はベッドにダイブした。
「疲れた……」
志季も志季だが、まさか鈴があんなに怒るとは。やはり火の神様は、一見クールに見えても激しい性格なのだろうか。あの騒ぎで余計に疲れた気がする。
ごろんと仰向けになり、ふと気付く。宗史が使ったはずなのに、きちんと整えられている。性格が出るなぁ、と苦笑が漏れた。
あのあと、紫苑と共に風呂場へ急ぐと、「今さらお前の裸など何とも思わぬわ!」と鈴の怒声が飛び出してきた。どうやら、パンツ一枚の宗史に何か言われたらしい。鈴がいつ明の式神になったのか知らないが、何とも思わないくらい何度も裸を見ているのなら、幼い頃の宗史を知っているのだろう。でもそういう問題じゃない。
結局、紫苑が鈴を羽交い絞めにし、明に包み隠さず詳細に報告するという、とばっちりを受けて超絶不機嫌な宗史が出した条件をしぶしぶ飲み、何とか事態は収束した。それ絶対俺もなんか言われる、と晴が肩を落としたことは言うまでもない。
我に返った影唯が大慌てで精霊を回収し、熱湯を抜いて水を足すという余計な作業が加わり、大河たち前線組が入浴を済ませた頃には、すでに十一時を回っていた。
宗史の不調もあり、明日は洞窟の調査以外の予定はない。報告は明日に回すことになった。
続きの間は、奥にもう一部屋ある。雪子の方の親戚一同が泊まりに来た時に使用するので、布団の数も広さも十分だ。とはいっても、さすがに男四人の中に女一人を放り込むわけにはいかず、鈴は影正の部屋があてがわれ、宗史ら四人で続きの間に泊まることになった。
ちなみに、入浴後、晴と志季は揃って深々と影唯や雪子に頭を下げた。
「気付かなかった僕のせいでもあるから、気にしなくていいよ」
「そうよ、ちょっと驚いただけだから。もう気にしないで」
と二人はフォローを入れたが、志季は気まずい顔のまま姿を消した。鈴に激怒され、宗史や晴に馬鹿呼ばわりされ、加えて明日には明からの説教も待っている。
「志季、心折れないかな」
故意ではないにせよ、あれはさすがにまずかった。だが可哀想だとも思うので、明日は優しくしてあげよう。
そんなことを思って一人で笑っていると、キャリーケースの取っ手にひっかけているボディバッグから、携帯の着信音が鳴った。省吾かな。小さく呟いて体を起こし、まだ少し重い腕を伸ばして携帯を引っ張り出す。やはり省吾だ。
「もしもし?」
「あ、悪い。まだ起きてたか?」
「うん、大丈夫。……風は?」
「とりあえず、予定通りヒナんちに泊まってる。でさ、お前、明日京都に戻るんだよな。時間は?」
「夜になる。昼間のチケットが取れなかったみたいで。って、そうだ。あのさ」
「うん?」
「例の洞窟の調査に行くんだけど、省吾も来る?」
「お、マジか。行く」
即決だ。行き慣れた場所だし、こんな機会でもないと足を運ぶことはもうないだろうと思って聞いたのだが、昼間話しをしたことで省吾も懐かしく思っていたのかもしれない。大河はくすりと笑った。
「分かった。皆に言っとく。二時か三時くらいになると思う」
「じゃあ、一時くらいにそっちに行くわ。風子のこともその時に話す。疲れてるだろ」
「んー、まあ……」
余計な騒動のせいでもあるのだが、今は時間を置いた方がいいと、自分で分かる。大河の曖昧な返事に、省吾が小さく笑った。
「じゃあ、切るな。悪かったな、こんな時間に」
「全然。こっちこそ、ありがと」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
挨拶を最後に、通話は呆気なく切れた。目の前であんな光景を見せられたのだ。気を使ってくれているのだろうが、何だかちょっとだけ他人行儀な感じだった。でもそれは、自分も同じかもしれない。
大河は携帯を横に置き、ボディバッグから独鈷杵を二本、取り出した。宗史と影綱の独鈷杵。
「……ほんとに、使っていいのかな……」
息苦しさも違和感もなく、自分の力を最大限に発揮できる、あの感覚。あれはまさに、爽快というべき解放感だった。
けれど、それは同時に、自分の感情に流される危険も孕んでいる。