第19話
文字数 1,002文字
現場を辞して、そのまま哨戒へ向かった樹と怜司の車と別れ、大河と華は寮への道を戻った。
「結局、何だったんですかね?」
大河は首を傾げて尋ねた。
「出る条件? それとも未練?」
「んー、どっちも。あと、泣いてた理由とか、何であの曲だったのかとか。あれ失恋ソングですよ? 最後の歌にしてはちょっと寂しすぎませんか」
「よっぽど好きだったのか、あの曲に思い出があったのか、かしら」
「ですよね……あ、あと何で俺も一緒に歌ったのかも分かりません」
大河は腕を組んで悩ましい声を上げた。
未練があのピアノの伴奏で歌うことならば、こちらに聞こえる聞こえないは問題ないのではないか。むしろ、カラオケレベルの素人の歌声など邪魔なだけだと思うのだが。
分からん、と一人ごちた大河に、華が言った。
「大河くん」
「はい?」
真っ直ぐ前を見据え、夜中の閑散とした道路でも安全運転を心掛ける華を振り向いた。
「ありがとう」
唐突に告げられた礼に、大河は首を傾げた。何に対しての礼か分からない。
「何がですか?」
きょとんとして瞬きをすると、華はふふと笑った。
「何でもないわ」
「は?」
礼を言っておいて何でもないとは何だ。大河の眉間にますます皺が寄った。
「戻るの、三時回るわねぇ。大河くん、起きるのゆっくりでいいから、ちゃんと休んでね」
「はあ……」
無理矢理話題をすり替えた華を横目に見やり、大河は曖昧な返事をした。
霊の女性といい女ってのはよく分からん、と首を傾げながら、車窓を流れる人気のない街並みに顔を向けた。
数日後、調律師の谷から、女性の正体が判明したと明へ連絡が入った。江口が買い取った知り合いがどうにも気になったらしく、購入した店に事情を話して遡って調べたらしい。
彼女は、五つ前の持ち主の幼馴染みだったそうだ。名前は竹内南 。歌手を目指していたが、平成へと元号が変わる直前に病死。ピアノの持ち主は女性で、名前は足立陽子 。
南と陽子、そしてもう一人、男性の幼馴染みがいた。南と男性は、陽子が弾くあのピアノの伴奏に合わせてよく歌っていたらしい。南は男性に密かに恋心を寄せていたが、気付いた時にはすでに陽子と付き合い始めており、さらに同時期に病気が見つかったという。
明から報告を聞いた大河は、
「ああ、だからか……」
ぽつりと、そう呟いた。
「結局、何だったんですかね?」
大河は首を傾げて尋ねた。
「出る条件? それとも未練?」
「んー、どっちも。あと、泣いてた理由とか、何であの曲だったのかとか。あれ失恋ソングですよ? 最後の歌にしてはちょっと寂しすぎませんか」
「よっぽど好きだったのか、あの曲に思い出があったのか、かしら」
「ですよね……あ、あと何で俺も一緒に歌ったのかも分かりません」
大河は腕を組んで悩ましい声を上げた。
未練があのピアノの伴奏で歌うことならば、こちらに聞こえる聞こえないは問題ないのではないか。むしろ、カラオケレベルの素人の歌声など邪魔なだけだと思うのだが。
分からん、と一人ごちた大河に、華が言った。
「大河くん」
「はい?」
真っ直ぐ前を見据え、夜中の閑散とした道路でも安全運転を心掛ける華を振り向いた。
「ありがとう」
唐突に告げられた礼に、大河は首を傾げた。何に対しての礼か分からない。
「何がですか?」
きょとんとして瞬きをすると、華はふふと笑った。
「何でもないわ」
「は?」
礼を言っておいて何でもないとは何だ。大河の眉間にますます皺が寄った。
「戻るの、三時回るわねぇ。大河くん、起きるのゆっくりでいいから、ちゃんと休んでね」
「はあ……」
無理矢理話題をすり替えた華を横目に見やり、大河は曖昧な返事をした。
霊の女性といい女ってのはよく分からん、と首を傾げながら、車窓を流れる人気のない街並みに顔を向けた。
数日後、調律師の谷から、女性の正体が判明したと明へ連絡が入った。江口が買い取った知り合いがどうにも気になったらしく、購入した店に事情を話して遡って調べたらしい。
彼女は、五つ前の持ち主の幼馴染みだったそうだ。名前は
南と陽子、そしてもう一人、男性の幼馴染みがいた。南と男性は、陽子が弾くあのピアノの伴奏に合わせてよく歌っていたらしい。南は男性に密かに恋心を寄せていたが、気付いた時にはすでに陽子と付き合い始めており、さらに同時期に病気が見つかったという。
明から報告を聞いた大河は、
「ああ、だからか……」
ぽつりと、そう呟いた。