第15話

文字数 810文字

『引っ越しトラブル特集第二弾! 実は事故物件だった! 視聴者の最恐心霊体験!』
 帰宅して、雅臣はいかにもなBGM付きの安っぽい煽り文句が流れているテレビを、味噌汁をすすりながら父の後頭部越しに眺めた。
 ああ二時間番組のCMか、と気付く。
 雅臣から言わせれば、非現実的すぎるしそもそも一度も怖いと思ったことがない。雅臣自身、幽霊だの金縛りだのを見たことも体験したこともないため、いくら実話だと言われても嘘っぽく聞こえる。
「こういう番組って、最近減ったわよねぇ。昔はもっと多かったのよ。面白かったのに」
 キッチンから母がしみじみ言うと、ソファで晩酌をしていた父が思い出したように雅臣を振り向いた。
「そういえば雅臣、お前、子供の頃見えてたんじゃないのか?」
「え?」
 何のことだ。茄子味噌炒めを口に運びかけた手が止まった。
「そうそう、そういえばそうねぇ。おばあちゃんが亡くなった時、貴方頻繁に言ってたわよね。あそこにおばあちゃんがいるよって。覚えてないかしら」
 母が懐かしげに笑いながら便乗した。まったく記憶にない。
「そうなの?」
「そうよ。でも、特に気にしなかったけどね。子供は見える子多いって言うし、おばあちゃんなら大歓迎よ」
「今は見えないのか?」
 父にからかうように尋ねられ、雅臣は苦笑した。
「見えないよ、そんなの。医者が言うこと?」
「何言ってる、病院は心霊現象の宝庫だぞ。看護師さんたちの中にも、見たことあるって言う人がいるしな」
「ふーん。お父さんは見たことあるの?」
「お父さんはないなぁ。一度くらい体験したいと思ってるんだけどねぇ」
「やあね、やめてよ。取り憑かれたらどうするのよ」
「その時は優秀な除霊師でも探すさ」
 楽しげに笑い合う両親を横目に、雅臣は冷や奴を箸で割った。
 今さらだ、あんなこと。からかいを通り越して蔑まれるなんて。
 雅臣は、本山たちに絡まれ逃げ帰って来たあの鬱々とした気持ちを、冷や奴と共に腹に収めた。
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