第1話
文字数 1,395文字
再び宗史 の携帯が鳴ったのは、廃ホテルに到着するまであと三十分ほどという時だった。
「私だ」
スピーカーにした携帯から宗一郎 の声が漏れる。
「陽 の携帯の電源が入った。廃ホテルだ」
えっ、と三人の声が揃った。
「連絡は」
「まだだ。位置も動いていない。意図的に入れられた可能性がある」
「意図的……分かりました。用心して向かいます」
「ああ。樹 と怜司 には連絡済みだ。頼んだぞ」
「はい」
通話が切られ、皆思案顔を浮かべる。
「なんか、変だよね」
「だな。志季 たちが救出したのなら連絡くらい入れるだろうし。だとすると、拘束を解かれて陽が自分で入れたのか?」
「考えにくいな。鬼代事件関係者がいる以上、陽が術を行使できると知っているはずだ。むやみに解かないだろう」
「じゃあ、やっぱり意図的? GPSを設定してるって前提で、俺たちにわざと位置を教えてるってこと?」
「そう考えるのが妥当だが……」
「なーんか、色々腑に落ちねぇな。樹の知り合いだろ? それに跡地の悪鬼を廃ホテルに向かわせたってことは、俺たちが行くって分かってるってことだよな。わざわざ入れる必要ねぇだろ。まあ、何かの罠だったら別だけど」
「罠って?」
「俺に聞くな」
「……関係性が分からない、か……こちらが思っている以上に複雑なのか、真実を隠すための方便か」
「あーもー、どのみち現場に行けば全部分かんだろ。あんまごちゃごちゃ考えんのやめようぜ」
お手上げと言わんばかりに面倒臭そうな声を上げた晴 に、大河 と宗史は苦笑を漏らした。
陽が廃ホテルにいると確定したのはいいが、それはそれで一つ謎が増えてしまった。一体、何がどう繋がって、誰のどんな思惑が絡んでいるのだろう。大河は長く溜め息をついた。
しばらくすると、遥か遠くの方から雷の音が聞こえた。窓から覗くと、山の上に真っ黒な雲の塊が浮いているのが見えた。こちらは夏の空が広がっている。通り雨かなと思っていると、こんな遠くまで届くほどの大きな雷が鳴り響き、どこかに落ちたことが分かった。
「怒らせたな」
ぼそりと宗史が呟いた。
「例の宇治川の女神様? じゃああれ、椿 が呼んだの?」
ああ、と宗史が頷くと、今度は晴が実感のこもった声で呟いた。
「人でも神でも、女は怒らせない方がいいぞ」
一人神妙に頷く晴に、大河と宗史が白けた視線を投げる。
考えるべきはそこではない。今現在悪鬼と戦っているということは、まだ廃ホテルに行っていないことになる。急がなければいけない。同時にそれは、携帯の電源を入れたのは陽自身ではなく、別の誰か、犯人たちである可能性が高くなった。やはり、わざと居場所を知らせるためだろうか。
地図で見ると一見遠回りだが、今の時間は高速を使ってぐるりと回り込み、信号のない山道を通った方が早いらしい。山道なだけに、かなり曲がりくねっているのだろうことくらいは察しがついていたが、晴と先行する怜司の運転も凄まじかった。走り屋でもやってたのかと思うほどの、華麗なハンドルさばきを披露してくれた。
長年、船で通学しているため揺れには耐性がある。しかし宗史は平気なのかとバックミラー越しに覗いてみると、腕を組んだまま能面のような顔で揺れに身を任せていた。正解だ。
「私だ」
スピーカーにした携帯から
「
えっ、と三人の声が揃った。
「連絡は」
「まだだ。位置も動いていない。意図的に入れられた可能性がある」
「意図的……分かりました。用心して向かいます」
「ああ。
「はい」
通話が切られ、皆思案顔を浮かべる。
「なんか、変だよね」
「だな。
「考えにくいな。鬼代事件関係者がいる以上、陽が術を行使できると知っているはずだ。むやみに解かないだろう」
「じゃあ、やっぱり意図的? GPSを設定してるって前提で、俺たちにわざと位置を教えてるってこと?」
「そう考えるのが妥当だが……」
「なーんか、色々腑に落ちねぇな。樹の知り合いだろ? それに跡地の悪鬼を廃ホテルに向かわせたってことは、俺たちが行くって分かってるってことだよな。わざわざ入れる必要ねぇだろ。まあ、何かの罠だったら別だけど」
「罠って?」
「俺に聞くな」
「……関係性が分からない、か……こちらが思っている以上に複雑なのか、真実を隠すための方便か」
「あーもー、どのみち現場に行けば全部分かんだろ。あんまごちゃごちゃ考えんのやめようぜ」
お手上げと言わんばかりに面倒臭そうな声を上げた
陽が廃ホテルにいると確定したのはいいが、それはそれで一つ謎が増えてしまった。一体、何がどう繋がって、誰のどんな思惑が絡んでいるのだろう。大河は長く溜め息をついた。
しばらくすると、遥か遠くの方から雷の音が聞こえた。窓から覗くと、山の上に真っ黒な雲の塊が浮いているのが見えた。こちらは夏の空が広がっている。通り雨かなと思っていると、こんな遠くまで届くほどの大きな雷が鳴り響き、どこかに落ちたことが分かった。
「怒らせたな」
ぼそりと宗史が呟いた。
「例の宇治川の女神様? じゃああれ、
ああ、と宗史が頷くと、今度は晴が実感のこもった声で呟いた。
「人でも神でも、女は怒らせない方がいいぞ」
一人神妙に頷く晴に、大河と宗史が白けた視線を投げる。
考えるべきはそこではない。今現在悪鬼と戦っているということは、まだ廃ホテルに行っていないことになる。急がなければいけない。同時にそれは、携帯の電源を入れたのは陽自身ではなく、別の誰か、犯人たちである可能性が高くなった。やはり、わざと居場所を知らせるためだろうか。
地図で見ると一見遠回りだが、今の時間は高速を使ってぐるりと回り込み、信号のない山道を通った方が早いらしい。山道なだけに、かなり曲がりくねっているのだろうことくらいは察しがついていたが、晴と先行する怜司の運転も凄まじかった。走り屋でもやってたのかと思うほどの、華麗なハンドルさばきを披露してくれた。
長年、船で通学しているため揺れには耐性がある。しかし宗史は平気なのかとバックミラー越しに覗いてみると、腕を組んだまま能面のような顔で揺れに身を任せていた。正解だ。