名づけられないもの

文字数 329文字

 具象というものに
 耐えられないこころがある
 そんなときは
 ベケットの小説しか読めない
 名づけられないもの
 ベケットの小説には
 ストーリーらしいストーリーも
 登場人物らしい登場人物も
 風景らしい風景も
 まったく存在しないから
 たまらなく心地いい
 わけのわからない支離滅裂な独り言が
 永遠につづくようなどうしようもなさ
 ベケットは昔
 路上で見知らぬ人に刺されたことがあるそうだけど
 こんな破格の小説は
 路上で見知らぬ人に刺されでもしないと
 書けないのだろうか
 ぼくは刺されても書けないと思うけど
 名づけられないもの
 読み終わっても
 なにが書いてあったのかまったく思い出せない本
 だから何度でも読める
 ありがたい
 名づけられないもの
 真空のような言葉に癒やされる
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