腐らせてしまった詩の備忘録
文字数 1,016文字
くさいものには蓋 するべきだと
幼い時分 は思ったものだ
自分がくさいものになってみると
くさいものなら殺してくれと
考え方を改めた
自分のにおいが嫌いだ
自分の容貌が嫌いだ
自分の振る舞いが嫌いだ
自分の話し声が嫌いだ
自分の書く詩が嫌いだ
自分が触れたものはなにもかも嫌いだ
自分が親しんだ人はだれもかも嫌いだ
こんな嫌悪を挙げつづけると
源氏物語より長くなる
最後にひとつだけつけ加えると
無意味に引き延ばされた詩は嫌いだ
詩を圧縮し省略し終わらせるために
鮮やかな転調を志そう
自己を真逆に煽動しよう
俳句のような簡潔を目指そう
便利な行空けを使ってしまおう
くさいものには蓋するべきだと
幼い時分は思ったものだ
自分がくさいものになってみると
くさいものこそ素晴らしいと
考え方を改めた
自分のにおいは薫香 だ
自分の容貌は幽玄 だ
自分の振る舞いは玲瓏 だ
自分の話し声は吟誦 だ
自分の書く詩は御言葉 だ
自分が触れたものはなにもかも聖餐 だ
自分が親しんだ人はだれもかも聖人 だ
こんな恩寵 を挙げつづけると
プルーストより長くなる
最後にひとつだけつけ加えると
意味に満たされた長詩は喜悦 だ
詩を増築し細密にし終わらせないために
鮮やかな転調を志そう
自己を至純に研ぎ澄まそう
叙事詩のような荘厳を目指そう
便利な行空けを使ってしまおう
だめだ
だめだなこんなんじゃあ
とてもじゃないけど終われない
相も変わらぬリフレイン
劣悪化していく措辞 の群れ
プロパガンダのような悪臭
鼻持ちならない宣教臭
言葉に贅 をつくしてみても
嫌いの一語にかなわない
根づよい嫌悪を覆せない
第一連も褒められたものではないが
真情 くらいはこもってる
真情なんて犬に喰われてしまえばいいが
第二連は犬にも喰べさせられない
どうやらこの詩は失敗した
だが諦めが悪いのは
詩を書くぼんくらの特権だ
試みを続けることだけが
嫌悪を漂白するただひとつの方途だ
さてもう一度やってみよう
便利な行空けを使ってしまおう
くさいものには蓋するべきだと
幼い時分は思ったものだ
幼い
自分がくさいものになってみると
くさいものなら殺してくれと
考え方を改めた
自分のにおいが嫌いだ
自分の容貌が嫌いだ
自分の振る舞いが嫌いだ
自分の話し声が嫌いだ
自分の書く詩が嫌いだ
自分が触れたものはなにもかも嫌いだ
自分が親しんだ人はだれもかも嫌いだ
こんな嫌悪を挙げつづけると
源氏物語より長くなる
最後にひとつだけつけ加えると
無意味に引き延ばされた詩は嫌いだ
詩を圧縮し省略し終わらせるために
鮮やかな転調を志そう
自己を真逆に煽動しよう
俳句のような簡潔を目指そう
便利な行空けを使ってしまおう
くさいものには蓋するべきだと
幼い時分は思ったものだ
自分がくさいものになってみると
くさいものこそ素晴らしいと
考え方を改めた
自分のにおいは
自分の容貌は
自分の振る舞いは
自分の話し声は
自分の書く詩は
自分が触れたものはなにもかも
自分が親しんだ人はだれもかも
こんな
プルーストより長くなる
最後にひとつだけつけ加えると
意味に満たされた長詩は
詩を増築し細密にし終わらせないために
鮮やかな転調を志そう
自己を至純に研ぎ澄まそう
叙事詩のような荘厳を目指そう
便利な行空けを使ってしまおう
だめだ
だめだなこんなんじゃあ
とてもじゃないけど終われない
相も変わらぬリフレイン
劣悪化していく
プロパガンダのような悪臭
鼻持ちならない宣教臭
言葉に
嫌いの一語にかなわない
根づよい嫌悪を覆せない
第一連も褒められたものではないが
真情なんて犬に喰われてしまえばいいが
第二連は犬にも喰べさせられない
どうやらこの詩は失敗した
だが諦めが悪いのは
詩を書くぼんくらの特権だ
試みを続けることだけが
嫌悪を漂白するただひとつの方途だ
さてもう一度やってみよう
便利な行空けを使ってしまおう
くさいものには蓋するべきだと
幼い時分は思ったものだ