死の代行者

エピソード文字数 716文字

 死の代行者(だいこうしゃ)は引く手あまただ
 自分の代わりに死んでくれる
 契約料はささやかなものだ
 死なずに彼を忘れないこと
 彼が肩代わりしてくれた
 投身・首吊り・服毒・入水(じゅすい)
 あなたがいずれするはずだった
 投身・首吊り・服毒・入水とは
 似て非なるものだ
 あなたのするはずだった行為が世界に示すものと
 彼が代行した行為があなたに示すものは
 似て非なるものだ
 あなたが良心的な契約者なら
 あなたは彼を忘れない
 彼が献身的な代行者であろうとも
 彼はあなたを忘れてしまう
 あなたが世界になにを示そうとも
 世界はそれを忘れてしまう
 彼がどれだけすみやかに消えようとも
 あなたは彼を忘れない
 あなたと世界は似て非なるものだから
 世界の残酷さを真似る必要はない
 世界と彼から忘れられてしまうあなたが
 忘却に四方を囲まれたあなたが
 あなたの意志によって彼を忘れないのなら
 あなたの生存と死は似て非なるものだ
 あなたの魂と死は似て非なるものだ
 世界よりも優しくあるために
 あなたが死を選ぶ必要はない
 彼が死を代行したことを
 あなたが気に病む必要はない
 あなたが世界に投げかけた呪詛(じゅそ)
 一顧(いっこ)だにされず聞き届けられなかったように
 彼があなたに求めた契約料も
 一顧だにされず支払われないのだろうか
 死なずにいることであなたが救われるかはわからないが
 忘れないことで彼は救われる
 あなたの救いと彼の救いは
 似て非なるものだからだ
 途上で出会う死は彼に任せて
 道の果てまで歩いていこう
 そこで待っている死にはきっと
 代行者などいないのだから
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