詩とはなにか
文字数 1,162文字
言の葉の雫
通りすがった
詩神 たちの一瞥
恐れるな
肉親の遺灰を蹴散らすような
言葉の美しさを
恐れるな
皮膚に埋 み火 を縫い込むような
言葉の凛々しさを
声は
こころに生起したとき
まだ言葉にはなっていない
なんらの意味もなさない
ただただ濃密な感情のおめき
吃 り続けるそのなけなしの土塊 を
聖別 しようと試みる者
すなわち詩人
誰もが詩人になれる
言葉を発しようとしなければ
誰もが詩人になれる
あぶく銭で買った万年筆をへし折れば
書くとき
語るとき
詩人は必ず失敗する
聖別とは名ばかりの
虐殺された言葉たちのご遺体
そこになにがしかの美があるならば
それは死体の美しさだ
あの懐かしい奥底のおめき
生きている限り誰しもを震わせる
名づけえぬ
不定形でぶざまな感情のおめき
それを正しく言葉に写し得た者はいない
詩の歴史は
詩人になり損ねた失敗者たちの歴史だ
失敗にも優劣はあるが
詩神のまなざしに
深更 まで堪 え得 た者はいない
言葉ではない言葉を語り得た者はいない
それなのに人は詩に魅せられる
言葉ではない言葉を
言葉たらしめることに死力を尽くす
詩神の一瞥をかけらなりとも残そうとする
詩人ではない詩人が
言葉ではない言葉を求め続ける
苦汁にまみれた聖杯を飲み干そうとする
詩と死の共通点は
言葉の響きだけではない
いまだ誰もその麗姿 にまみえたことがないという
たしかな不可能性にある
けれど死に際して
人は誰しも詩人ではないのか
それは遺された者たちの誤読か
詩と死は重なり得るものなのか
詩を書くことと
死ぬことの
その差分の計測こそが
詩人のなり損ないに許された生業ではないのか
死ぬときに
言葉は必要とされるだろうか
こころは歌うことを是認するか
何人 の死も正確には記憶されない
まして詩など
誰が必要とするのか
それは記憶に値するものか
人間の死体と言葉の死体の
どちらに詩は宿るのか
死に捧げられる言葉などあるか
挽歌が鎮め得た魂などあるか
愛する者が死んだときに
言葉を失わない者などいるか
自らが死のうとするときに
言葉を彫琢 する間抜けなどいるか
詩が必要とされる死などあるか
詩は死になり損ねた言葉の残骸
詩人は死体になり損ねた間抜けの異名
詩神は死神の落魄した醜貌
それなのに
人は詩に魅せられる
死に触れられるのは詩だけだと
錯誤を詩人は信仰している
通りすがった
恐れるな
肉親の遺灰を蹴散らすような
言葉の美しさを
恐れるな
皮膚に
言葉の凛々しさを
声は
こころに生起したとき
まだ言葉にはなっていない
なんらの意味もなさない
ただただ濃密な感情のおめき
すなわち詩人
誰もが詩人になれる
言葉を発しようとしなければ
誰もが詩人になれる
あぶく銭で買った万年筆をへし折れば
書くとき
語るとき
詩人は必ず失敗する
聖別とは名ばかりの
虐殺された言葉たちのご遺体
そこになにがしかの美があるならば
それは死体の美しさだ
あの懐かしい奥底のおめき
生きている限り誰しもを震わせる
名づけえぬ
不定形でぶざまな感情のおめき
それを正しく言葉に写し得た者はいない
詩の歴史は
詩人になり損ねた失敗者たちの歴史だ
失敗にも優劣はあるが
詩神のまなざしに
言葉ではない言葉を語り得た者はいない
それなのに人は詩に魅せられる
言葉ではない言葉を
言葉たらしめることに死力を尽くす
詩神の一瞥をかけらなりとも残そうとする
詩人ではない詩人が
言葉ではない言葉を求め続ける
苦汁にまみれた聖杯を飲み干そうとする
詩と死の共通点は
言葉の響きだけではない
いまだ誰もその
たしかな不可能性にある
けれど死に際して
人は誰しも詩人ではないのか
それは遺された者たちの誤読か
詩と死は重なり得るものなのか
詩を書くことと
死ぬことの
その差分の計測こそが
詩人のなり損ないに許された生業ではないのか
死ぬときに
言葉は必要とされるだろうか
こころは歌うことを是認するか
まして詩など
誰が必要とするのか
それは記憶に値するものか
人間の死体と言葉の死体の
どちらに詩は宿るのか
死に捧げられる言葉などあるか
挽歌が鎮め得た魂などあるか
愛する者が死んだときに
言葉を失わない者などいるか
自らが死のうとするときに
言葉を
詩が必要とされる死などあるか
詩は死になり損ねた言葉の残骸
詩人は死体になり損ねた間抜けの
詩神は死神の落魄した
それなのに
人は詩に魅せられる
死に触れられるのは詩だけだと
錯誤を詩人は信仰している