幾度も

文字数 364文字

 なにも読みたい本がない
 なにも聴きたい音楽がない
 これまで幾度
 そんな気持ちが訪れただろう
 いまの自分には
 本と音楽をのぞけば
 生きる理由は皆無に近いので
 それはつまり
 もう生きる理由がない
 というのと同じだ

 それでも
 読み飽きるほど読んだ本に
 聴き飽きるほど聴いた音楽に
 今生の別れのようなつもりで
 もういちど触れると
 そこにはやはりなにかがある
 かつての自分を動かしたなにか
 焦がれるほどに輝くなにか
 それは
 触れるたびに新しく
 本質的に飽きるということがない
 生命(いのち)
 飽きるということはないのだ
 輝きは死を包含しているから
 魂に新たな刻み目が増えて
 息を吹き返す
 そのときだけは
 こう思える
 生きる理由はないが
 生まれないより
 生きて死ぬ方がいいと
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