文明へのむかつき

文字数 654文字

 衣服をまとうのが多くの文明社会の作法であるように
 こころも隠し方に作法がある
 所作がある
 規範がある
 衣服をまとう社会においてはみだりな露出は罪に問われるが
 こころの露出も同様であるようだ
 こころのみだりな露出は罪に問われる
 視線によって責められる
 涙は排斥され義憤は疎まれ叫びは圧殺される
 衣服をまとう習慣に反発した露出狂による論理は
 欲望に歪められている場合が多々あるためあまり関心を抱けないが
 こころの露出に関してはそのかぎりではない
 公的な場におけるこころの露出はどの程度に許されてどの程度に裁かれるべきなのか
 完全に納得できる見解はいまだ形成されず論議を呼んでいる
 たとえば集合住宅の一室において餓死した死体が示すこの社会の閉鎖性は
 どうすれば救えたのかまるで見当がつかないほどに末期的であるように思える
 それは経済や就労に関する構造の問題であると同時にこころを隠すという作法の問題でもあるはずだ
 いまにも餓死しようとしかけている人間がなぜ隣人や道行く他人や食品売場の販売員に
 これだけ人であふれていながら助けを求めることなどつゆほども考えられず自ら追い詰められて死なざるを得ないのか
 動物を蔑視し文明を自賛するそのご立派な知性は所詮は弱者を生み出し見捨てて失意のうちに殺すためのはりぼてに過ぎないのか
 自分も参与しているこの万物の霊長と自称する得意顔のごろつき集団へのやるせない怒りはどうすれば解消できるのか
 完全に納得できる見解はいまだ形成されず論議を呼んでいてひたすらにむかつかざるを得ない
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