他人の死

文字数 394文字

 浮浪者は道ばたで死ぬ
 独居者は自室で死ぬ
 その死について
 ぼくは知らない
 言葉を遺した人
 演技を遺した人
 演奏を遺した人
 物語を遺した人
 表現者の死についてなら
 少しは知っている
 その人の遺された表現に触れるたびに
 死んだという事実が頭をよぎる
 毎日毎日だれかが死んだというニュースを目にする
 ニュースにさえならない死がおびただしくある
 死刑囚だって死んだ後の報告で知る
 その人たちについて何も知らない
 その人たちとしか言えない
 抽象的な雲みたいにしか扱えない
 表現者の死は記憶に残る
 表現者は表現を遺して死ぬ
 表現を通してしか世界を実感できない自分のような人間は
 表現者の死にしか反応していない
 それだって空疎といえば空疎な理解だ
 身近な人間の死だって
 本当に実感できているのか
 他人の死はいつまで他人事なのか
 問われている気がする
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み