他人との会話

文字数 291文字

 相手がなんと言ったかわからなかったのに
 反射的に相槌をうつ
 そのあとの二言三言のやり取りを経て
 文脈から察して先ほどの空欄をこっそりと埋める
 あの一拍遅れた
 溯行的理解
 そこにたどり着くまでの数秒間
 会話は成立しているように見えても
 自分と相手は別の島宇宙にいる
 なにも理解していないのに
 意思の伝達がなされたような
 偽装されたコミュニケーション空間
 本当は
 親しくなれたと思えた相手との会話も
 魂の秘密をお互いに明かしあえたような会話も
 そんなものでしかなかったのだろうか
 なにも伝わっていなかったのだろうか
 なにも理解していなかったのだろうか
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