水死体の日常

文字数 421文字

 プールで人が死んでいる
 水泡(みなわ)(ちまた)
 子どもの帝国に
 独りの(かばね)が浮いている

 屍は男だろうか女だろうか
 若いだろうか年老いているか
 家族は
 恋人は
 知っているのだろうか
 屍がいまプールに浮かんでいるのを知っているのだろうか
 水にくるまれて独り事切れていることを知っているのだろうか
 屍の係累(けいるい)に溺死者はいたか
 屍の友達に水死者はいたか
 屍はいままで
 水を愛してきただろうか
 いつか自分を殺す水と
 友好的なつながりを築いてきたか
 不器用な愛を育んできたか

 屍が屍になったのは
 不慮の事故か
 ほんの一瞬の油断か
 或いはまた
 そうでなかったとしたら
 心中(しんちゅう)に期するものがあったか
 あまりにも水を愛したために
 焦がれ死にするほどの(くら)い激情が
 屍にはあったのか

 プールでいま
 人が死んでいる
 水霊(みずち)と化した屍が独り浮いている
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