指先までの距離
文字数 590文字
寝そべって
腕を伸ばす
光にかざされた
指の紗幕
眼から指先までの
片腕ぶんの距離
他人ほどにも遠い
自らの末端
子どもの頃から不思議だった
動けと思うまでもなく
指はいつのまにか動いている
脳と呼ばれる中枢から
指令が飛んでいるはずなのに
飛脚 の存在を感じさせない
指はなにものの命 も受けず
自ら動いているように見える
わたしの身体はわたしよりも位が高く
わたしの意識によって統御などされていない
指はわたしをたびたび裏切る
ましてわたしの言葉など
指は意に介しもしない
言葉が生まれるよりも先に
身体はすでに動いている
その言葉の遅れには
なにか意味深いものがある
死歿 に遅れて開かれる
弔いの儀式のような鈍 さ
もしも脳が破損して
伝達の処理速度に異常を来 したら
透けていた飛脚が顔を現す
動けと念じ
言葉を浮かべ
一拍遅れ
ようやくに指先は動いてくれる
ここにおいて従属は明らかだ
そのとき脳は
主人面 して勝ち誇るか
神経網のほつれを嘆くのか
その悲喜劇を
身体に置いていかれたわたしはどう感ずるか
いまはまだ
わたしの指先は自由に振る舞う
山巓 を周回する鳥のように
光の雨に湯浴みしている
腕を伸ばす
光にかざされた
指の
眼から指先までの
片腕ぶんの距離
他人ほどにも遠い
自らの末端
子どもの頃から不思議だった
動けと思うまでもなく
指はいつのまにか動いている
脳と呼ばれる中枢から
指令が飛んでいるはずなのに
指はなにものの
自ら動いているように見える
わたしの身体はわたしよりも位が高く
わたしの意識によって統御などされていない
指はわたしをたびたび裏切る
ましてわたしの言葉など
指は意に介しもしない
言葉が生まれるよりも先に
身体はすでに動いている
その言葉の遅れには
なにか意味深いものがある
弔いの儀式のような
もしも脳が破損して
伝達の処理速度に異常を
透けていた飛脚が顔を現す
動けと念じ
言葉を浮かべ
一拍遅れ
ようやくに指先は動いてくれる
ここにおいて従属は明らかだ
そのとき脳は
神経網のほつれを嘆くのか
その悲喜劇を
身体に置いていかれたわたしはどう感ずるか
いまはまだ
わたしの指先は自由に振る舞う
光の雨に湯浴みしている