顔はおもしろい
文字数 430文字
顔はおもしろい
おもしろくない顔はない
世間的な美醜の観念を棚に上げれば
あらゆる顔の造形はおもしろい
眼というビー玉はおもしろい
鼻という丘陵はおもしろい
口という古井戸はおもしろい
耳という貝殻はおもしろい
車の前面部が顔に見えるのはおもしろい
丸を描いてそのなかに二三の点を加えるだけで顔に見えるのはおもしろい
外面描写のない架空の登場人物にすら与えられてしまう想像力による不鮮明な顔はおもしろい
記憶に残されたさまざまな人の顔はおもしろい
同一人物なのにさまざまな時期によってゆるやかな遷移がある顔はおもしろい
毎日会っている人の顔ですら記憶の中だけですべての細部を思い浮かべようとするとどうしたことかとらえどころのない空白が生まれてしまうというその幽霊のような顔はおもしろい
ただひとつ
自分の顔はおもしろくない
なんて退屈な顔だろうと思う
なんて凡庸な顔だろうと思う
鏡とはなんとつまらない映写幕だろうと思う
おもしろくない顔はない
世間的な美醜の観念を棚に上げれば
あらゆる顔の造形はおもしろい
眼というビー玉はおもしろい
鼻という丘陵はおもしろい
口という古井戸はおもしろい
耳という貝殻はおもしろい
車の前面部が顔に見えるのはおもしろい
丸を描いてそのなかに二三の点を加えるだけで顔に見えるのはおもしろい
外面描写のない架空の登場人物にすら与えられてしまう想像力による不鮮明な顔はおもしろい
記憶に残されたさまざまな人の顔はおもしろい
同一人物なのにさまざまな時期によってゆるやかな遷移がある顔はおもしろい
毎日会っている人の顔ですら記憶の中だけですべての細部を思い浮かべようとするとどうしたことかとらえどころのない空白が生まれてしまうというその幽霊のような顔はおもしろい
ただひとつ
自分の顔はおもしろくない
なんて退屈な顔だろうと思う
なんて凡庸な顔だろうと思う
鏡とはなんとつまらない映写幕だろうと思う