わたしは通りすぎる

エピソード文字数 305文字

 わたしは通りすぎる
 時間の経たない暗闇を
 記憶を持たない絶望を
 舌先が夜に痺れている
 喉の渇きを黒でうるおす

 わたしは通りすぎる
 入れ違いになった福音を
 細かく切り刻まれた慈悲心を
 爪先が死に焦がれている
 皮膚のさざなみを悪で慰撫する

 わたしは通りすぎる
 通りすぎることで消えていく
 優しい人々に別れを告げながら
 鼓膜に届く嗚咽を無視しながら

 わたしは通りすぎる
 通りすぎたくなかった
 あらゆる過去を見殺しにして
 わたしは
 通りすぎたくなかったのに
 通りすぎることしか許されなかった
 わたしは
 わたしが通りすぎないことを許さなかったなにかを
 けっして許さない
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