魂はビー玉

エピソード文字数 620文字

 なにも欲しくないという状態は
 信仰の瀰漫(びまん)する共同体においては見込みがあっても
 われらが消費社会の成員においては
 落ちこぼれを意味する

 ()(ぞうろう)
 見事に落ちこぼれました
 なんにも欲しくありません
 自分の魂すら投げ捨てたい気分です

 魂はビー玉
 魂は透明な球体
 生まれおちた時に優しい指先に押され
 坂道をころころと転げはじめた
 その慣性によってここまで生きてきたが
 いまや道はまっさらな平場(ひらば)になり
 どこへも続いておらず
 転がりつづけてきた魂も
 どうやら静止する寸前だ

 魂はビー玉
 震えがちな子どもの玩具(おもちゃ)
 その手に握りしめて
 死ぬまで離さないと幼く誓った
 久方ぶりに(たなごころ)を開いてみると
 あんなにも綺麗だった球体は
 手垢と汗と血で薄汚れていた
 それでも捨てられなかった
 明日は捨てられるだろうか

 魂はビー玉
 天の遊び場で死んだ子どもたちに(はじ)かれる小球(しょうきゅう)
 (さい)河原(かわら)石積(いしつ)みよりは
 いくぶんか愉快げな
 いくぶんか儚げな
 無聊(ぶりょう)を慰める永遠の遊び
 遊び場には石楠花(しゃくなげ)が咲いている
 死んだ子どもたちは魂と同じくらいに透けている
 淡彩(たんさい)の存在苦を背負っている

 魂はビー玉
 玻璃(はり)にくるまれた宇宙
 凍りついた涙
 砕けない哀しみ
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