天までつづく横断歩道

文字数 623文字

 道路にひかれた
 白い縞
 車が行き交う死圏にかけられた
 歩行者を守る認識の橋
 それがいまでは
 階段になっていた

 道路の対岸ではなく
 青い空へと
 白い段差がつづいていた

 信号は赤だけど
 ぼくはのぼった
 交通法規は下界のルールだから
 昇天に口は挟めない

 上から見下ろす信号機って
 伏し目がちで哀しそう
 三色目玉の愉快な道化の
 別の面影を見た気分

 電線にとまったカラスにハロー
 思いのほか近くからの挨拶に
 黒い鳥類は驚いている

 横断歩道
 どんどんのぼる
 段の先
 雲に隠れている

 きょうが晴れていてよかった
 階段が雨にぬかるんでいたら
 転落して死ぬのは必至だから

 ヤコブが夢にみた梯子って
 翼をもがれた天使のための
 バリアフリーだったのかな
 障害を持った天使のための
 神のせいいっぱいの扶助

 道路の向こうに渡るはずだったのに
 いつのまにか太陽に近づいている
 のぼっているうちに日も暮れて
 オレンジに染まる白い階段
 夕焼けの雲と友達のふり
 夜になるまでの短い遊び

 触れそうなほど近い月をみて
 階段の途中で一休み
 道路の向こうへ渡るのは
 もはや絶望的だけど
 天のどこかへたどりつくなら
 この階段も悪くない
 帰りたくなったら落ちればいいから
 もう少しだけのぼってみよう
 横断歩道を渡ろうとして
 天を目指すことになろうとは
 神もびっくりの散歩コース
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