火で葬る

エピソード文字数 470文字

 生きながら焼かれるのはひどく凄惨で苦しそうなのに
 死ぬと焼かれるのがこの社会の掟
 葬送の慣習
 火葬を忌避する文化圏も世にはある
 その感覚は少しわかるような気がする
 内実の違う想いかもしれないが
 身近だった人が荼毘(だび)に付されようとしているまぎわ
 本当に燃やしてしまうのかと
 胸の奥がかすかに(うず)いた

 息をつき
 声をあげ
 人に触れ
 人と笑う
 彼の存在を媒介していたその肉体が
 燃やされる
 もとより彼は死んでいる
 もとより彼は二度と動かない
 それでも
 燃やしてしまったら
 本当に取り返しがつかないではないかと
 いまさらのように感じたそのときの(おり)のような抵抗感は
 胸になおもくすぶっている

 どうあれ死体は失われてしまう
 燃やすというのは迅速な解答だ
 人間ひとりを焼くということが
 思いのほか時間も手間もかかる難事業だとしても
 とにかくそれは
 獣から人間への階梯(かいてい)に貢献した火という神秘によって死者を葬るというその思いつきは
 惜別にもたらされた革命なのだろう
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み