予言する勧誘員

エピソード文字数 811文字

 人間の滅びが間近いのは
 周知の事実です
 と
 保険の勧誘に来た男が
 玄関先に立ったまま
 うさんくさい笑顔で言った
 世間では周知の事実でも
 ぼくにとっては初耳だった
 あなたの脳髄が滅びるのは勝手ですけど
 それに人類を巻き込まないでください
 と
 腹立たしげに言い返した
 間延びした死相が
 お客さまの顔には見られます
 お客さまはいつか死にますよ
 と
 保険の勧誘に来た男が
 さえぎられた進入路をまさぐるように
 どことなく(さそり)に似た笑顔で言った
 関係を決めるのは意志ではないけれど
 お客さまになった覚えはなかった
 余計なお世話です
 いつか死ぬのは誰だって知っています
 と
 不安をだまくらかすように言い返した
 もしやお客さま
 ひょっとして
 詩など書かれてはおられませんか
 と
 保険の勧誘に来た男が
 目に一丁字(いっちょうじ)もありませんと主張するような声色で
 買い置きの罠を使うような笑顔で言った
 たしかに詩のようなものを書いてはいたが
 詩の話だけはしたくなかった
 ぼくがなにを書いていようが
 あなたとの関係は絶無(ぜつむ)です
 と
 書くという行為への誤解をまきちらしながら言い返した
 実はわたくしも詩を書いておりまして
 よろしければ
 御一読(ごいちどく)ねがえませんでしょうか
 と
 保険の勧誘に来た男が
 中原中也の詩に出てくる天使のような身振りで
 ペンだこを誇示するような笑顔で言った
 ひとの詩を読むのは大好きだが
 書き手を選ぶ権利はぼくにもあった
 聖霊(せいれい)の宿る言の葉しか
 読まないことにしておりますので
 と
 たわごとめいた倫理を発表しながら言い返した
 では朗読させていただきます
 人間の滅びが間近いのは
 周知の事実です
 と
 保険の勧誘に来た男が
 玄関先に立ったまま
 持久力のありそうな笑顔で言った
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