記憶のなかの音楽

文字数 276文字

 記憶のなかの音楽は
 本物に劣るときもあれば
 勝るときもある
 それはけっして単なる模造品ではない
 暗い気持ちで歩いているとき
 こころをよぎってくれた音楽に
 どれだけ助けられたことか
 耳朶(じだ)を震わして胸に伝わる音色と
 空気に触れることなく内側に響く音色は
 同じではない
 記憶のなかの音楽は
 死んだ人のように淡い
 そよ風のように優しい
 “淡しとは単に捕えがたしという意味で、弱きに過ぎる(おそれ)を含んではおらぬ”
 漱石さんもそう書いている
 記憶のなかの音楽は
 記憶のなかの死者のように
 消えない淡さで支えてくれる
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