遠ざかるのを見ながら

文字数 267文字

 ぼくが近づくと
 事物は遠ざかる
 人であれ物であれ出来事であれ
 なにもかもが遠ざかる
 淡く霞む
 ぼくでさえがぼくから遠ざかるので
 もう慣れてしまった
 なにもかもが遠ざかる
 なににも触れられない
 この疎隔感は所与のものなので
 どうしようという気にもなれない
 ただ何年も何年もすべてが遠ざかるのを見ていると
 結局ぼくは
 生まれなかったのと同じだなって
 なにひとつ触れられないまま
 ぼんやり思う
 とりあえず泡のような言葉を
 風に浮かべてどこかに飛ばしながら
 早く死なないかなって
 口にしてみて笑ってみる
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