生誕の詩

文字数 385文字

 ぼくの生まれて初めて口にした言葉は
 なんだったのだろう
 母を呼ぶ言葉か
 父を指す言葉か
 肉体と世界に流れる水を名指したか
 頬に優しく触れる風を名指したか
 (かて)となるべくもぎ取られた果実を名指したか

 ぼくの生まれて初めて出した声
 世界に在るという苦痛と喜びにむせぶ
 ひび割れるような泣き声
 弔鐘(ちょうしょう)のような生誕の産声(うぶごえ)
 幻滅のノイズ
 祈りのモノフォニー

 いまだ生まれ得ぬ胎児のころ
 ぼくはなにを想っていたのだろう
 なにを夢見ていたのだろう
 生の手前の胞衣(えな)に包まれながら
 未生(みしょう)の冷たい死を予感しながら

 夢見る胎児のこころのように
 かすかに震える詩をつむぎたい
 生まれたばかりの声で叫びたい
 初めて口にする言葉で歌いたい
 生まれ死ぬという世界への恋を
 涙を流しながら祝したい
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