死にぞこなった恋

エピソード文字数 523文字

 どうすればこの痛みは
 胸から去ってくれるのか

 あらゆる痛みは時間が解決してくれるものだと
 人は言うし
 自分の経験も物語る
 それなのにこの痛みは衰えるどころか
 日に日に鋭さを増していき
 内側から喰いやぶられた胸が
 なんらかの治癒を求め叫んでいる

 なにによって治癒すべきか
 楽しい思い出によって
 でもぼくのあらゆる記憶はいま
 彼女の面影と結びつき
 痛みの呼び水にしかならない

 なにによって治癒すべきか
 芸術への傾倒によって
 でもぼくのあらゆる創造はいま
 彼女への想いと結びつき
 痛みの呼び水にしかならない

 なにによって治癒すべきか
 宗教への献身によって
 でもぼくのあらゆる信仰はいま
 彼女への祈りと結びつき
 痛みの呼び水にしかならない

 眠りだけが
 ぼくの守護天使だ
 ぼくがぼくでなくなるあいだだけが
 生きた心地のする唯一の時間だ
 けれど眠りの最大の敵は
 痛みすら彼女とのつながりだと錯覚する
 ぼくの頑迷な意志だ
 狂った恋情の残骸だ

 ぼくの意識は眠りを求め
 ぼくの恋情は痛みを乞い願う
 痛みの消えたときが
 彼女を本当に失うときだと
 くたばりぞこなった恋情が叫んでいる
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