もうない

文字数 297文字

 自分の指の動きにさえ
 疑問がわくようになったら
 もう末期だ
 なぜ自分は動いているのだろう
 空気を揺らす必要なんて
 もうないのに
 だれも通らない隙間をかいくぐって生きのびてきた
 もうそんなスペースもない
 ぴったりと閉じた
 半径一メートルの円まで縮まって
 なおも縮小している
 もうすぐ踏み場もなくなるだろう
 圧死と呼ぶべきか墜死と呼ぶべきか
 居場所が消えて死ぬ人間は
 珍しくもない
 叫んでも反響が耳ざわりだから
 もう叫ばない
 音なんて外には届かない
 指すらも通る隙間はない
 なにも見えないしなにも聞こえない
 だれもいない
 もうすぐいなくなる人間の鼓動だけ
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