文字数 370文字

 死んだ人の生きた言葉を読みながら
 残りつづけるなにかを
 信じてもいいのかと思った

 死んだ人の生きた歌を聴きながら
 震えつづけるこころを
 許してもいいのかと思った

 ぼくはいまでは死んだ人にしか
 愛を抱けないのかもしれない
 自分を死んでいるように見なしているから
 そう感じるのか
 死ぬことと
 死んだふりとのあいだには
 無限の径庭(けいてい)があるというのに

 死んでいるという
 ただそれだけで
 いかなる死者にも敬意を抱いてしまう
 唾棄すべき人物さえも

 やがて自分が本当に死ねば
 死者である自分のことを
 ほんの少しだけ好きになれるかな
 そんな夢をみたりもする
 死んでいないくせに
 死んだら消えるくせに
 夢は

 最後の人間はどんなふうに死ぬのだろう
 最後の人間は
 なんて寂しく死ぬのだろう
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