子どもの死体の映像

文字数 441文字

 子どもの死体の映像
 たまに思い出す
 脳味噌が出ていた
 眼がうつろだった
 子どもの死体
 並んでいた
 殺されていた
 死んでいた
 子どもの死体
 死体たち

 「泣けば嘆きの深さが減る」
 シェイクスピアの台詞
 ヴォネガットが講演で
 慰めになったと紹介していた台詞
 その講演が収められたエッセイ集には
 ビアフラ戦争のルポルタージュも載っている
 陥落寸前のビアフラに滞在して
 餓死寸前の子どもたちを見た話
 髪の毛は赤く
 皮膚は張り裂け
 直腸が体外に飛び出し
 腕も足も痩せ細っていた
 そんな話
 ヴォネガットの同行者の男性は突然泣き出した
 ヴォネガットの同行者の女性は一度も泣かなかった
 ヴォネガットは帰宅して三日目に一度だけ泣いた
 その文章を信じるなら

 「泣けば嘆きの深さが減る」
 その言葉を書いた人間は
 どんなときに泣いたのだろう
 涙を悔やんだのだろうか
 どうしようもなく

 子どもの死体の映像
 モニターの向こう
 殺戮の現場
 日常の遠さ
 子どもたち
 死体たち
 泣けもしない
 嘆きもしない
 漠たる距離
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