一人暮らしのアキレス

文字数 356文字

 信じられないことに
 自分の家のなかで迷子になってしまった
 宮殿でも屋敷でもない
 ひっそりとした六畳一間で
 ぼくは迷子になってしまった

 ベランダに通じる奥の窓
 その向いに歩いていけば
 扉までは一直線だ
 ところがいつまで歩いても
 扉は姿を現さず
 部屋が際限なく伸びていく
 コンビニ弁当の残骸
 あちこちに散らばった学術書
 寝心地の悪そうな万年床
 なじみのわびしい風景が
 樹海のように広がってゆく
 歩けども歩けども
 弁当・学術書・万年床の繰り返し

 アキレスと亀の話を思い出す
 あのパラドックスは
 どこに誤りがあるんだっけ
 二日酔いの頭脳で早く思い出さないと
 いつまで経ってもぼくは
 このわびしい一人住まいのアキレスは
 あたたかい団欒(だんらん)という亀に追いつけない
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