夜の底、井戸の底

エピソード文字数 372文字

 夜の底で
 声をあげる
 だれにも伝わらず
 自分にも届かない

 自分とはだれなのだろう
 壁の向こうの隣人だろうか
 膜の向こうの囚人だろうか
 会ったことがあるのかどうか
 見覚えもないし親しみもわかない

 井戸の底は狭くて暗い
 ひとりだけしかうずくまれない
 そして自分自身が他人なら
 生き残るために争うしかない
 この手狭な領地を死守するために
 自分自身を殺さなければならない

 自分とはだれなのだろう
 なんど殺しても甦りつづける
 不死の悪夢の貪欲な先触れ
 夜の底で
 井戸の底で
 なんども邂逅(かいこう)し目をそらした
 言葉の通じない(かたく)なな異端者

 自分を理解できない
 自分にも理解してもらえない
 声が消える
 惑乱が常態として君臨する
 助けられなかった影が
 哀しそうに胸をかきむしっている
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