溺死入門
文字数 413文字
溺れ死ぬなんて初めてのことだ
緊張するな
でもこれはいい緊張だ
緊張しているに越したことはない
その方が溺れやすい
身体は固く
思うように動かない
上手い具合に沈んでいく
眼も鼻も口も
地上で酷使していた器官はあっという間に役立たず
亡き者にしようと水が押し寄せる
すべてが敵になるこの被害感
社会よりは陰湿ではない
とても冷たくはあるが
狂って溺れ死んだオフェリヤは
最後に歌を歌っていたっけ
歌か
悪くないな
気泡のように口ずさもう
手につかむものはなにもない
もがいてる自分が遠くの夢のよう
人魚姫は地上で生きる代償に
声を失った
溺死者が水中でこんなにも饒舌ならば
さもありなん
水の底
水の底
そんな書き出しの詩を
漱石かだれかが書いていなかったっけ
水底に図書館があるならば
確かめてみようじゃないか
ああ水の底
水の底
死を飲みながら死んでいく
緊張するな
でもこれはいい緊張だ
緊張しているに越したことはない
その方が溺れやすい
身体は固く
思うように動かない
上手い具合に沈んでいく
眼も鼻も口も
地上で酷使していた器官はあっという間に役立たず
亡き者にしようと水が押し寄せる
すべてが敵になるこの被害感
社会よりは陰湿ではない
とても冷たくはあるが
狂って溺れ死んだオフェリヤは
最後に歌を歌っていたっけ
歌か
悪くないな
気泡のように口ずさもう
手につかむものはなにもない
もがいてる自分が遠くの夢のよう
人魚姫は地上で生きる代償に
声を失った
溺死者が水中でこんなにも饒舌ならば
さもありなん
水の底
水の底
そんな書き出しの詩を
漱石かだれかが書いていなかったっけ
水底に図書館があるならば
確かめてみようじゃないか
ああ水の底
水の底
死を飲みながら死んでいく