哀しみを防ぐ傘はない

文字数 272文字

 空から哀しみが降ってきて
 そうしてそれを防ぐ傘はない
 そうなんだ残酷なことに
 それを防ぐ傘はない
 哀しみは雨樋(あまどい)を伝って流れ落ち
 そうして立ちつくしていた貧者を濡れ鼠にする
 椿の花も桜の花弁も
 哀しみをたっぷりと含んで落下し
 長靴もレインコートも
 そぞろに濡れつくす五体を守らない
 富者だと信じられていた者たちが貧者へと横滑りする
 そうしてそれを防ぐ傘はない
 網代木(あじろぎ)は魚を牢獄(ひとや)に放り込む
 警邏(けいら)罪人(つみびと)を手ひどく撲殺する
 そうしてそれを防ぐ二十一世紀初頭の傘はない
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