わたしが消えていく

エピソード文字数 570文字

 もうだれとも
 会いたいと思えない
 もうどこにも
 行きたいと思えない

 食べなければ人は死ぬ
 わたしは食べたくなかった
 動かなければ人は死ぬ
 わたしは動きたくなかった

 群れることは人の(さが)
 わたしは群れたくなかった
 語ることは人の性だ
 わたしは語りたくなかった

 こころはある
 寂しさを感じるこころはある
 でもその寂しさは
 他人といるかぎりふりつもる
 生きているかぎりふりつもる

 こころはある
 生きたいと願うこころはある
 でもその願いは
 他人といるだけで消えていく
 生きているだけで消えていく

 もう少しも
 生きたいと思えない
 もう少しも
 死ねないと思えない

 それでもいまは生きている
 それでもいまは生きている

 わたしは生きたくなかった
 それは間違いなく嘘だ
 わたしは死にたくなかった
 それも間違いなく嘘だ

 嘘をひとつひとつ洗い落とすと
 わたしになにが残るのだろう
 わたしは生きられるのか? 死ねるのか?
 わたしは死ねるのか? 生きられるのか?

 わたしは亡霊だ
 死ぬことを望む亡霊だ
 わたしは空白だ
 生きることを望む空白だ

 もう
 生きようとは思わない
 もう
 死のうとも思わない
 もうわたしは
 こころを(とも)そうとは思わない
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