泣かない世界

エピソード文字数 447文字

 人はやがて死ぬ
 その未来に耐えられないから
 ぼくは人を愛するのをやめた

 なぜみんなその未来に耐えられるのだろう
 笑いながらぼくは
 幸福を死が塗りつぶす
 やるせない終末しか頭に浮かばなくて
 笑顔がだんだんひきつっていく
 笑うにつれて痙攣(けいれん)する

 耐えられないのはぼくだけではないと
 本当はわかってる
 ならなんでみんなは今すぐにでも
 路上にうずくまって泣かないのか
 ぼくはいつだって
 泣きじゃくる準備はできているのに
 あまりみんなが泣かないから
 もう十年以上泣いていない

 他人に合わせて泣かないなんて
 恥知らずもいいところだ
 涙は始源から持つ灯火(ともしび)なのに
 それを出し惜しむ人間は
 生まれなかったのと同じだ
 ひたぶるに死んでいる生きた石像だ
 生まれなかった胎児を甦らせて
 ぼくの人生と入れ替えてくれ
 そうしてその子が生まれるときに
 好きなだけ泣かせてやってくれ
 そうしてその子が死ぬときに
 ありったけの涙を手向けてくれ
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