見なかった涙

エピソード文字数 336文字

 気分が悪くて吐きそうだ
 喉から胸のあいだに黒い塊があるような不快感
 時間が経てばこれは消える
 眠ることさえできれば消える
 それよりも
 消えない方の疼きは
 どうすればなくなってくれるのかいまだわからないやるせなさは
 吐くことさえもかなわない不在の塊は

 ああ気分が悪い
 吐き気がする
 吐き気がするんだよ
 涙がにじんできた
 でもこの涙は肉体的なものだ
 感情の方の涙は
 なぜうまく流れてくれないんだろう
 いつからこの蛇口は塞がっているのだろう
 “わりとすぐに泣いてしまいます”
 あの人はいつかそう言っていたっけ
 でも結局
 あの人の泣く姿なんて見なかったな
 哀しんでほしくなんかないけれど
 その涙は見てみたかったな
 触れてみたかったな
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