一切のすべて

文字数 190文字

 わたしはもうだれも知らなかった
 鳥を呼んでいた老人も
 丘に眠っていた牧人も
 わたしはもうだれも知らなかった
 震えた痛みにおののく少年も
 苦り切った表情の慈善家も
 わたしはもうだれも
 わたしを知るだれとも出会えなかった

 わたしを知っている
 空から見下ろすだれかの衣擦れ
 その気配だけが
 夕暮れの茜さす塔の頂上で
 わたしが出会える一切のすべて
 世界の世界
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