バッハに関するエピソード

文字数 271文字

 著名な音楽評論家が
 妻を亡くしてしまってからは
 なにも聴けなくなってしまった
 音楽に苦痛すら覚えるようになった
 ただ唯一
 バッハの曲だけは聴くことができた
 バッハの曲を聴いていると
 この不条理で理不尽な世界にも
 なんらかの秩序があるのではないか
 そんなふうに信じることができた

 どこかでそのエピソードを読んで
 とても共感した
 その人の喪失感や痛みを
 理解できるわけではないし
 その人自身もすでに亡くなっているが
 それでも少しはわかる気がした
 勝手にうなずいて共感した
 バッハにはなにか
 そういうところがある
 痛みに触れずに
 痛みを癒すような
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