ネットの言葉

文字数 641文字

 ネットには
 いろいろな人が
 いろいろな言葉を書いている
 半数以上が匿名で顔も見えない
 言葉だけが
 どこからともなく出現したような
 宙に浮いているような
 実在感の稀薄さがつきまとう
 嘘まみれの言葉もあるし
 騙そうと待ちかまえている言葉もある
 それでもその背後には人間がいる
 生きている人間が
 生活している人間が
 自分と同じように

 商品をレビューできるようなサイトで
 自分の好きなものが
 口汚く罵られていたりすると
 思わずむっとして
 その人間が
 他にどんなレビューを書いているか
 ついつい覗いてしまう時がある
 目を覆うような
 罵詈雑言の雨あられ
 たまに思い出したような
 ぞんざいで的外れな機械的賛美
 その記録をたどっていくと
 最初に抱いた怒りは薄れて
 いつのまにか
 痛ましく思ってしまう
 その人間のなにかが見えてきたような気がして
 報われなかった過程が目に見えるような気がして
 きっとその人は
 顔も知らないだれかに憐れまれたところで
 怒り狂うだけだろうけど

 ぼくの言葉も
 顔のないまま
 ネットにぷかぷか浮かんでいる
 だれにも知られなかったり
 だれかの怒りを買ったり
 だれかに憐れまれたりしながら
 同じように

 なにを言いたかったのだろう
 なにを書きたかったのだろう
 わからなくなった
 ただなにか
 匿名で顔のない言葉が
 憎悪をまきちらしたり
 常軌を逸した論理を振りかざしているのを見ると
 人間というのは
 なぜこんなにも痛ましいのかと
 疑問に思う
 人間が不在のネットに
 人間の幻を広げながら
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