小さな声

エピソード文字数 322文字

 テレビの声はなぜ
 こんなにも大きいのだろう

 いつも小声で話す友人が
 不思議そうにつぶやいた
 なるほどたしかに
 彼の話しぶりに比べたら
 いくら音量を絞ってみても
 テレビの声はまるで軍楽
 ささやきですら楽隊を従えている

 ぼくはいまでは
 小さな声にしか興味を持てない
 耳を澄まさずに日々を送ると
 存在の影すら気づかせない
 かそけき地霊のような声
 記憶に限りがあるのなら
 つつましやかなその声たちの
 逃げ場のひとつにでも残しておきたい

 テレビの声はなぜ
 こんなにも大きいのだろう
 小声でしか話せない友人が
 消え入りそうな
 死にかけた猫のような細い声で
 必要もないのに恥じながら
 寂しそうにつぶやいた
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