詩の対価

エピソード文字数 1,043文字

 あくまでぼくの場合だが
 苦手な作家の小説と
 苦手な詩人の詩集なら
 後者のほうが 絶望的に読みにくい
 小説なら
 敬遠しながらでも楽しめる
 あらすじくらいは覚えられる
 意外な発見すら見出だせる
 うわのそらでも踏破(とうは)できる
 詩に関しては
 そうはいかない
 全霊(ぜんれい)で寄りそえないならば
 黒塗りのページを眺めるのと同じだ
 意味を伝えない散文の出来そこない
 快も不快もない音楽
 ゲシュタルト崩壊を誘発する字面(じづら)
 工場よりも詩集のほうが
 くすんだ単純労働を強いるときがある
 小説に比べると
 詩は本質的にインファイターなのだ
 ふところにもぐりこめなければ
 すべてが終わる
 睦言(むつごと)をメガホンでがなりたてても
 官能のしびれは起こし得ない
 なんぢは冷かにもあらず熱きにもあらず
我は(むし)ろ汝が冷かならんか 熱からんかを願ふ
 その黙示録(もくしろく)の言葉は
 詩について語った言葉ではないか
 かく熱きにもあらず 冷かにもあらず
ただ微温(ぬるき)が故に 我なんぢを我が口より吐出(はきいだ)さん
 その黙示録の言葉は
 詩集の感想に通じるものがないか
 神は自分に捧げられた詩を読みながら
 腹を下したようなしかめ(つら)をしているのかもしれない
 神の流す脂汗(あぶらあせ)
 (かわや)を探す彷徨(ほうこう)
 無意識につぶやく罵詈雑言(ばりぞうごん)
 神に無意識はあるのか
 神の罵詈讒謗(ばりざんぼう)
 詩のような韻文で為されるのか
 人は不幸に見舞われると神を罵るが
 神はなにを罵ればいいのか
 神のみぞ知ると言えればいいが
 神になにほどのことがわかるのか
 詩集の話から
 ずいぶん離れたところに来てしまった
 ここに書きつけられたもの思いを
 詩と呼び慣らわすことに意味はあるのか
 詩の行分けに意味はあるのか
 もったいぶった遅延ではなく
 ページをかさませる苦肉の策ではなく
 惰性的な身だしなみの一環でもない
 なけなしの必然性はあるのか
 無償の遊戯性はあるのか
 せめて単純労働でも
 (すずめ)の涙ほどの対価くらいは
 読者の精神に支払えているのか
 食あたりを起こした神が
 寝こまない程度には腐敗を防げたのか
 黒塗りのページに宿る
 無言の純粋詩を凌駕(りょうが)しおおせたのか

 猫がお腹をすかせているので
 ぼくは詩作をほうりだし
 言葉にあらざる糧を与えた
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