泣けない人間

文字数 453文字

 泣きたくても泣けない
 なぜ泣きたいのだろう
 なぜ泣けないのだろう
 それもわからない
 泣いたところで
 どうなるものでもないのに
 最後に泣いたのはいつだろう
 思い出せなかった
 あの人と会えなくなったのは
 哀しみと痛みを無限に広げたけれど
 それでも泣けなかった
 泣けたらいいのにと
 いまでも思っているのに
 本当に泣いていないのだろうか
 ささいなことで泣いた気もする
 でも憶えていない
 記憶に残らない涙なら流せる
 記憶に残る涙とはどんなものだろう
 人が死んだときに泣いたなら
 その人の死を忘れないかぎり
 涙も記憶に残される
 自分の死が近づいたときに
 どれだけの死を思い出せるだろうか
 どれだけの涙を思い出せるだろうか
 自分が流した感情
 自分が喪った感情
 百年後に人類がまだ笑っていたら嬉しい
 ヴォネガットはそういった
 百年後に人類がまだ泣いていたら
 嬉しいだろうか
 哀しいだろうか
 百年後に人類がもう泣かなかったら
 嬉しいだろうか
 哀しいだろうか
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