遺された歌を聴きながら
文字数 335文字
ついに追いこしてしまった
十代の頃に憧れた
才能ゆたかな音楽家
彼の声と
つむがれる言葉がとても好きで
聴くたびにこころを揺らされた
季節とつがいになった叙情に憧れた
人は死に
年は過ぎる
そうしてどれだけ好きな歌にも
倦んでしまうときは来る
どれだけ好きだった人も
忘れてしまうときは来る
季節は移ろい
なにもかもが忘れられていくが
生きている限りは
どんなことも思い出せる
あおぎ見ていた人が死んで
どれだけ年数が経っても
歌は残る
歌声のなかの彼は
いまでもやはり年上だった
いまでも気高い歌い手だった
時は流れて
季節はめぐり
遺された歌にも
四季はおとずれる