祖父は言った

文字数 378文字

 祖父が死ぬ間際にこう言った
 オマエハダレナンダ
 祖父はもう誰を見ても思い出せなかったので
 それ自体は不思議ではなかった

 男児しか授からなかった祖父は
 息子の嫁さん(ぼくの母)から贈り物をもらった夜に
 落涙して言った
 オンナノコハヤサシイモノダ
 死んだ後に祖母が洩らすまで
 息子の嫁さん(ぼくの母)さえ知らない言葉だった

 幼い自分が
 祖父の身体の欠けた部分について
 疑問をぶつけたときにこう言った
 ネズミニカジラレタンダヨ
 欠けた由来も
 欠けた人生でなにを想ったのかも
 その言葉の他に祖父の口から聞くことはなかった

 祖父が死ぬ間際にこう言った
 オマエハダレナンダ
 じいちゃん
 なにかしら近しいものを感じとっていたじいちゃん
 死んだいまなら答えを知っていますか
 ぼくは誰で
 ぼくにはなにが欠けているんですか
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